・・・そのほか、越中守を見捨てて逃げた黒木閑斎は、扶持を召上げられた上、追放になった。 ――――――――――――――――――――――――― 修理の刃傷は、恐らく過失であろう。細川家の九曜の星と、板倉家の九曜の巴と衣類の・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・のモラルやヒューマニズムの額縁は、かえって人間冒涜であり、この日常性の額縁をたたきこわすための虚構性や偶然性のロマネスクを、低俗なりとする一刀三拝式私小説の芸術観は、もはや文壇の片隅へ、古き偶像と共に追放さるべきものではなかろうか。そして、・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・彼は師僧道善房にせまって、日蓮を清澄山から追放せしめた。 このときの消息はウォルムスにおけるルーテルの行動をわれわれに髣髴せしめる。「道善御房は師匠にておはしまししかども、法華経の故に地頭を恐れ給ひて、心中には不便とおぼしつらめ・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・ギリシャは琴に絃を一本附け加えた者を追放しました。芸術は拘束より生れ、闘争に生き、自由に死ぬのであります。」 なかなか自信ありげに、単純に断言している。信じなければなるまい。 私の隣の家では、朝から夜中まで、ラジオをかけっぱなしで、・・・ 太宰治 「鬱屈禍」
・・・『われひとりを悪者として勘当除籍、家郷追放の現在、いよいよわれのみをあしざまにののしり、それがために四方八方うまく治まり居る様子』などのお言葉、おうらめしく存じあげ候。今しばし、お名あがり家ととのうたるのちは、御兄上様御姉上様、何条もってあ・・・ 太宰治 「帰去来」
・・・『われひとりを悪者として勘当除籍、家郷追放の現在、いよいよわれのみをあしざまにののしり、それがために四方八方うまく治まり居る様子、』などのお言葉、おうらめしく存じあげ候。今しばし、お名あがり家ととのうたるのちは、御兄上様御姉上様、何条もって・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・て、三鷹駅ちかくの、すしやに行き、大急ぎで酒を呑むのであるが、そんなときには、家に酒が在ると便利だと思わぬこともないが、どうも、家に酒を置くと気がかりで、そんなに呑みたくもないのに、ただ、台所から酒を追放したい気持から、がぶがぶ呑んで、呑み・・・ 太宰治 「酒ぎらい」
・・・小さい盃の中の酒を、一息にぐいと飲みほしても、周囲の人たちが眼を見はったもので、まして独酌で二三杯、ぐいぐいつづけて飲みほそうものなら、まずこれはヤケクソの酒乱と見なされ、社交界から追放の憂目に遭ったものである。 あんな小さい盃で二、三・・・ 太宰治 「酒の追憶」
・・・この友人もまた、瀬戸内海の故郷の島から追放されているのである。「故郷なんてものは、泣きぼくろみたいなものさ。気にかけていたら、きりが無い。手術したって痕が残る。」この友人の右の眼の下には、あずき粒くらいの大きな泣きぼくろが在るのだ。・・・ 太宰治 「善蔵を思う」
・・・家郷追放、吹雪ノ中、妻ト子トワレ、三人ヒシト抱キ合イ、行ク手サダマラズ、ヨロヨロ彷徨、衆人蔑視ノ的タル、誠実、小心、含羞ノ徒、オノレノ百ノ美シサ、一モ言イ得ズ、高円寺ウロウロ、コーヒー飲ンデ明日知レヌ命見ツメ、溜息、他ニ手段ナキ、コレラ一万・・・ 太宰治 「創生記」
出典:青空文庫