・・・ 二マイルも離れた川から水路を掘り通して旱魃地に灌漑するという大奮闘の光景がこの映画のクライマックスになっているが、このへんの加速度的な編集ぶりはさすがにうまいと思われる。 ただわれわれ科学の畑のものが見ると、二マイルもの遠方から水・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・第三にはフィルムの毎秒のコマ数によっておのずから規定された速度の制約を無視して、快速な運動を近距離から写した場面が多い。そういうところはただ目まぐるしいだけで印象が空疎になるばかりでなくむしろ不快の刺激しか与えない。これはフィルムの上におけ・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・またもし蓄音機の盤を正常な速度の二倍あるいは半分の速度で回転させれば単に曲のテンポが変わるのみならず、音程は一オクテーヴだけ高くあるいは低くなってしまうのである。東京市民を驚かせるような強震が二日に一度三日に一度ずつ襲って来るとしたらどうで・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・蛇が虎のからだにじりじりと巻きつく速度が意外にのろい、それだけに無気味さが深刻である。蛇が蛇自身の目では見渡せないあの長いからだを、うまく舵を取って順序よく巻きついて行く手ぎわは見ものである。虎のほうでも徐々に胴のまわりに巻きつくのを、どう・・・ 寺田寅彦 「映画「マルガ」に現われた動物の闘争」
・・・交通速度の標準が変ると距離の尺度と時間の尺度とがまるきり喰いちがってしまうのである。 その頃にもよく浜で溺死者があった。当時の政客で○○○議長もしたことのあるK氏の夫人とその同伴者が波打際に坐り込んで砂浜を這上がる波頭に浴しているうちに・・・ 寺田寅彦 「海水浴」
・・・能弁なる彼は我輩に一言の質問をも挟さましめざるほどの速度をもって弁じかけつつある。我輩は仕方がないから話しは分らぬものと諦めてペンの顔の造作の吟味にとりかかった。温厚なる二重瞼と先が少々逆戻りをして根に近づいている鼻とあくまで紅いに健全なる・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・あんな小僧っ子の事で、何だ、グズグズ気をとられてるなんて、他事 汽車が、速度をゆるめた。彼は、眠った風をして、プラットフォームに眼を配った。プラットフォームは、彼を再び絶望に近い恐愕に投げ込んだ。 白い制服、又は私服の警官が四五十人・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・ 船の速度丈けの風があった。そこでは空気がさらさらしていた。 殊に、そこは視野が広くて、稀には船なども見ることが出来たし、島なども見えた。 フックラと莟のように、海に浮いた島々が、南洋ではどんなに奇麗なことだろう。それは、ひどい・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・海洋は摩擦少きも却って速度は大ならず。最も愚鈍なるもの最も賢きものなり、という白い杭が立っている。これより赤道に至る八千六百ベスターというような標もあちこちにある。だから僕たちはその辺でまあ五六日はやすむねえ、そしてまったくあの辺は面白いん・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・ 中年から以後、ミケルアンジェロの作品がつねに未完成にのこされた、それについてロマン・ロランでさえ個人的に性格の分裂という風に見たりしているのを正してこの著者が「悲壮にも挫折した歴史急転の速度を追って追い抜こうとして、そこにいたるところ・・・ 宮本百合子 「現代の心をこめて」
出典:青空文庫