・・・わたしの一番会いたい彼は、その峰々に亘るべき、不思議の虹を仰ぎ見た菊池、――我々の知らない智慧の光に、遍照された菊池ばかりである。 芥川竜之介 「「菊池寛全集」の序」
・・・いや、伝説によれば、愚物の吉助の顔が、その時はまるで天上の光に遍照されたかと思うほど、不思議な威厳に満ちていたと云う事であった。 二 奉行の前に引き出された吉助は、素直に切支丹宗門を奉ずるものだと白状した。それ・・・ 芥川竜之介 「じゅりあの・吉助」
・・・いや、むしろ可愛い中にも智慧の光りの遍照した、幼いマリアにも劣らぬ顔である。保吉はいつか彼自身の微笑しているのを発見した。「きょうはあなたのお誕生日!」 宣教師は突然笑い出した。この仏蘭西人の笑う様子はちょうど人の好いお伽噺の中の大・・・ 芥川竜之介 「少年」
・・・むかし僧正遍照は天狗を金網の中へ籠めて焼いて灰にしたというが、我らにはなかなかそのような道力はないから、平生いろいろな天狗に脅されて弱っている、俳句天狗や歌天狗、書天狗画天狗浄瑠璃天狗、その上に本物の天狗に出られて叱られでもしたら堪らないか・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・ たとえば私がカサカサした枯れ芝生の上に仰臥して光明遍照の蒼空を見上げる。その蒼い、極度に新鮮な光と色との内に無限と永遠が現われている。そうしてあたかもその永遠の内から湧きいでたように、あたかも光がそれを生んだように、私の頭の上には咲き・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
出典:青空文庫