・・・ まして、わが作家同盟が、その成員と活動の歴史性により過渡的制約性として、現在まだ少なからず小市民性的要素を包括している場合、その小市民性こそが困難な闘争に際して「左」右両翼への偏向を生む社会的要因である場合、われわれの警戒と努力とは、・・・ 宮本百合子 「前進のために」
・・・音楽でもオネガーは過渡期の古典となっている。文学に於る心理主義も第二次大戦後の今日からみれば古典的な現象である。洋画の世界で近代画家の必要なテクニックの一ツであるように思われているディフォーメイションもその徹底的な疑問がもたれていい時だ。デ・・・ 宮本百合子 「ディフォーメイションへの疑問」
一、伸子は 段々ひきつけられた、p.9「プロレタリアートは時代の先端を壮烈な情熱をもって進んでいる、しかも我々の前には過渡期の影が尚巨体をよこたえている」 一章一章が、青年らしい丹念さでまとめられている。・・・ 宮本百合子 「「敗北の文学」について」
・・・しかし、過渡的にもせよ、こうして憲法が変ったことは、それにつれて民法、刑法の変更をもたらし、これまでの日本の婦人がおかれていた全く従属的な地位は高められました。このことは、私たちが公平にみとめてよいことだと思います。 ところが、こうして・・・ 宮本百合子 「婦人大会にお集りの皆様へ」
・・・然し、今日の地球上の情勢は、二つの世界、プロレタリア・農民インターナショナルの結成と、ファッショ化した世界ブルジョアの過渡的協力との対立をますます激化させつつある。 プロレタリア文学は、当然、内国的主題をいよいよ具体的に国際的なプロレタ・・・ 宮本百合子 「プロレタリア文学における国際的主題について」
・・・を書き、又「過渡時代の道標」を書いた筆者自身が、かかる急速な左翼文化・文芸運動の波の裡にあって、強固な一階級人として発育して行った過程をも亦窺わせるのである。それやこれやを合わせ考えれば、この評論集はその長所においても欠点においても、今日の・・・ 宮本百合子 「『文芸評論』出版について」
・・・への文学の協力は、従って、それよりずっとずっと手前の、現在の日本をこめた世界の大多数の社会がおかれている矛盾、混乱、撞着の中でいわれているのであり、その実際条件は、当然のこととしてその呼び声にも様々の過渡的な制約を加えざるを得ない。 日・・・ 宮本百合子 「平坦ならぬ道」
・・・彼等のインテリゲンツィア的理論づけ、組立ての外観が、当時に於て一過渡期にいたマクシム・ゴーリキイを一時搦め込んだのである。四十歳になり、世界の作家ゴーリキイになっていた彼は、この時、二十代の生一本さを失っていたとともに、知識で装った敵を破る・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・尤もセゾンはもう冬かも知れないが、過渡時代には、冬の日になったり、秋の日になったりするのだ。きょうはまだ秋だとして置くね。どこか底の方に、ぴりっとした冬の分子が潜んでいて、夕日が沈み掛かって、かっと照るような、悲哀を帯びて爽快な処がある。ま・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・ ロダンは何の過渡もなしに、久保田にこう云った。「マドモアセユはわたしの職業を知っているでしょう。着物を脱ぐでしょうか。」 久保田はしばらく考えた。外の人のためになら、同国の女を裸体にする取次は無論しない。しかしロダンがためには厭わ・・・ 森鴎外 「花子」
出典:青空文庫