・・・ 宝石商は、今日はここの港、明日は、かしこの町というふうに歩きまわって、その町の石や、貝や、金属などを商っている店に立ち寄っては、珍しい品が見つからないものかと目をさらにして選り分けていたのであります。 火の見やぐらの立っている町も・・・ 小川未明 「宝石商」
・・・手近な歌集の中から口調のいいと思うのと、悪いと思うのとを選り分けて、おのおのに相当する曲線を画いてみて両者の間に何か著しい特徴が線の上から見えるかと思って調べてみた。何しろ僅少な材料であるから何事も確かな事は云われないが、ただ一つ二つ気の付・・・ 寺田寅彦 「歌の口調」
・・・適当に仕切られた戸棚や引出しの中に選り分けられて、必要な場合に取り出しやすいようにされる。このようにして記載的博物学の系統が芽を出し始める。 分類は精細にすればするほど多岐になって、結局分類しないと同様になるべきはずのものである。しかし・・・ 寺田寅彦 「言語と道具」
・・・ 道ばたで薄ぎたないシナ人がおおぜい花崗石を細かく砕いて篩で選り分けている。雨が少し降って来た。柳のある土手へ白堊塗りのそり橋がかかってその下に文人画の小船がもやっていた。なんだか落ち着いたいい心持ちになる。…… 夜福州路の芝居を見・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・よく考えてみると、これはやはり波が砂を選り分ける役をしているのです。水の底では波のために砂が絶えずおだてられているが、これが落ちる時は大きい粒のほうがいつでも早く落ちるから、長い間には大きいのはだんだん底になり、細かいのが上に残る事になる。・・・ 寺田寅彦 「夏の小半日」
・・・これらの線が一度はどこかの郵便局へ束になって集められ、そこで選り分けられて、幾筋かの鉄道線路に流れ込み、それが途中で次々に分派して国の隅々まで拡がってゆく。中には遠く大洋を越えて西洋の光の都、南洋のヤシの葉蔭に運ばれる。その数々の線の一つず・・・ 寺田寅彦 「年賀状」
・・・御膳を出してやって、その上に箸で口へ持ち込んでやって丸呑みにさせるという風な育て方よりも、生徒自身に箸をとってよく選り分け、よく味わい、よく咀嚼させる方がよい。すぐ消化され吸収されるものばかりでなく、折々は不消化物も与えないと胃の機能が衰え・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
・・・ ピエエルは郵便を選り分けた。そしてイソダン郵便局の消印のある一通を忙わしく選り出して別にした。しかしすぐに開けて読もうともしない。 オオビュルナン先生はしずかに身を起して、その手紙を持って街に臨んだ窓の所に往って、今一応丁寧に封筒・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
出典:青空文庫