・・・わたしとしては、過去のプロレタリア・リアリズムが主張した階級対立に重点をおいた枠のある方法では、階級意識のまだきわめて薄弱な女主人公の全面を、その崩壊の端緒をあらわしている中流的環境とともに掬いあげ切れない。佐々という中流層の家庭の崩壊過程・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・「生きて行く姿の移り変りをその移り変りに重点をおいてかく。その時々の一種のモラルみたいなものを描いてゆく」ものとされているのが、生態描写である。青野氏はなかなか面白いとし、宇野氏は「イヤ、いかんね」と云い、その座は笑声に満ちたらしいが、・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・にその重点をおくべきものとしている点である。しかも、その肝心のところに、この作家にとって主観的に理解され自意識されていて、その社会的・心理的本質の追究はまぬかれている自意識というものをおき、そこで、偶然と必然という、人類が社会と思想との発展・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・第六部を批評していたが、それは、この作品が五月号の部分では最も明瞭に且つ重点をそこにおいて企業内の反動政策との闘争について書いているのに肝心のそのところはちっとも理解せず、同志伊藤や笠原という婦人を書いたとこだけをとりあげ、同志小林が女に対・・・ 宮本百合子 「小説の読みどころ」
・・・その経路を生産の場面に働く人間の存在の条件或はその状態から語る労働として見る立場からその文学が立ち現れず、物を生産する過程や場所に重点を置く生産という言葉を戴いて出現したことは、やはり時代の対人間の傾向を示すものとして見逃せない。建設的な精・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・その際、事件の発展の順序、比重、描写における精疎のリズムなどを何によってわれわれが判断するかといえば、描こうとされている現実の複雑な諸要因、錯綜した関係に対して、作者がどことどこに重点をおこうとしているかということが、土台となって来る。現実・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・それぞれのもちものを生かして、その上での前進を、共通の重点をとおして見てゆくという複雑さをおそれない方法がとられないと、それはゆたかに縦横むじんに育たない。いまのところやせている民主文学が、ぐっとのびるモメントは、ここにあると思えるのである・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
・・・ 福島からとりと云う五十歳ばかりの女中が来、自分の生活が一方にはっきりと重点を定めて仕舞うまで、今日考えれば、可哀そうな混乱をしたのである。 母上は、始めから、家などを持っては到底駄目だ、と主張された。当時、それは、直ちに、お前が結・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・ 考えてみれば、女性の問題といえば先ずその性にばかり重点をおく風習は、一つの封建遺風ではなかろうか。 婦人参政に関しても、道義というものは当然あるわけだ。それがすたれ、或は穢されるということのあり得る事実も明白である。 進歩党は・・・ 宮本百合子 「人間の道義」
・・・オストロフスキーの文学に於ける地位は、その作品の芸術的な価値と共に全くここに重点を置いて、一個の新人間のタイプ、尊敬すべき生命の意味の理解者、実践者として観察され評価されるべきタイプなのである。 大衆の自覚とわが声でものを言わんとする情・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
出典:青空文庫