・・・また例えば金光寺門前の狐竜の化石延命院の牡丹の弁の如き、馬琴の得意の涅覓論であるが、馬琴としては因縁因果の解決を与えたのである。馬琴の人生観や宇宙観の批評は別問題として、『八犬伝』は馬琴の哲学諸相を綜合具象した馬琴宗の根本経典である。・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・子宮癌とのことだった。金光教に凝って、お水をいただいたりしているうちに、衰弱がはげしくて、寝付いた時はもう助からぬ状態だと町医者は診た。手術をするにも、この体ではと医者は気の毒がったが、お辰の方から手術もいや、入院もいやと断った。金のことも・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・古びたモザイックや壁画はどうしても今の世のものではなかった。金光燦爛たる祭壇の蝋燭の灯も数世紀前の光であった。壁に沿うて交番小屋のようなものがいくつかあった、その中に隠れた僧侶が、格子越しに訴える信者の懺悔を聞いていた。それはおもに若い女で・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・先ず案内の僧侶に導かれるまま、手摺れた古い漆塗りの廻廊を過ぎ、階段を後にして拝殿の堅い畳の上に坐って、正面の奥遥には、金光燦爛たる神壇、近く前方の右と左には金地に唐獅子の壁画、四方の欄間には百種百様の花鳥と波浪の彫刻を望み、金箔の円柱に支え・・・ 永井荷風 「霊廟」
出典:青空文庫