・・・それで、式をあげるのをのびのびに延期していたところ、金融非常措置の発表があった。旧紙幣の通用するうちに、式をあげた方がいいだろうと説き伏せると、彼も漸く納得して、二月の末日、やっと式ということになった。 仲人の私は花嫁側と一緒に式場で待・・・ 織田作之助 「鬼」
・・・「結局金融措置というのは人騒がせだな」「生産が伴わねば、どんな手を打っても同じだ。しかもこんどの手は生産を一時的にせよ停めるようなものだからな。生産を伴わねば失敗におわるに極まっている。方法自体が既に生産を停めているのだからお話にな・・・ 織田作之助 「郷愁」
・・・東条英機のような人間が天皇を脅迫するくらいの権力を持ったり、人民を苦しめるだけの効果しかない下手糞な金融非常処置をするような政府が未だに存在していたり、近年はかえすがえすも取り返しのつかぬような痛憤やる方ないことのみが多いが武田さんの死もま・・・ 織田作之助 「武田麟太郎追悼」
・・・それから銀行と産業とが結びついて、金融資本が発生し、金融寡頭政治ができてくる。 資本家の間に於ける独占は、始めは国内の市場をそれぞれに分割する。が、国内の市場は、資本主義の下では、外国市場と密接な関係を持っていて、そこで、それらは、一定・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・ックのダイナミックな手法が、彼の旅行記の中でソヴェト社会の建設の姿を典型的につかむことに成功しているにしろ、彼がブルジョア・デモクラシーとプロレタリアートの階級的独裁の本質的なちがいを理解せず、自国の金融資本の独裁をみずにスターリンの独裁を・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ なお放送委員会はその職責をはたすために商業、工業、金融、労働、農業、教育、地方自治などの団体代表の意見を徴するようにつとめなければならないとされている。この諸団体のなかに民主的な文化団体があげられていないのはなぜだろうか。一九四六年に・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・何百、何千、何万の娘たちの給料の半額を会社で預って、預った金を一ヵ月間会社のために流用するなら、その金融的効力はどのくらいだろう。六年制の国民学校を出ただけの、子供のような女工さんには、こまかい話はしても判らない。会社は若い娘の夢をもたせる・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・それをつっこんでゆけば、「もう日本の金融資本の実体を文学の上にかかなければならぬと思うのです。」「社会を描かなければならない。」それを書かないで「本当のストライキの情勢はかけない。そういう風になってくるからなかなか書けない。」「実際経験して・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
・・・ 彼女は、事務所の仕事、金融、手形の神秘的働なぞのうちに、音楽や美術に見出せると同様の亢奮とつきない興味とを覚えました。 一生懸命で経済学原理、万国貨幣制度、憲法などを研究しました。 学校を卒業すると、彼女は希望通りミスタ・シム・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・しかし彼を翻弄した上流人の生活詐術、十九世紀の金力と結びつき権力と結びついた新聞人の無良心的な関係、手形交換に際して行われる金融の魔術――アングレークにおけるプティクローがリュシアンに対してとる態度――を描くときバルザックは殆ど淋漓たる筆力・・・ 宮本百合子 「バルザックについてのノート」
出典:青空文庫