・・・そうして通帳に金額を記入して、黙って花江さんに返してやります。「五時頃、おひまですか?」 私は、自分の耳を疑いました。春の風にたぶらかされているのではないかと思いました。それほど低く素早い言葉でした。「おひまでしたら、橋にいらし・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・そして少からぬ金額を旅費として受け取った。最後に暇乞をしようとした時、名所記類を一山授けた。ポルジイは頭痛に病みながら、これを調べたのであった。 さてこの一切の物を受け取って、前に立っている銀行員を、ポルジイ中尉は批評眼で暫く見て、余り・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・ それからまた○○などで全国の科学研究機関にサーキュラーを発して、数々のかなり漠然たる研究題目とそれに対して支給すべき零細の金額とを列挙してそれらの問題の研究引受人を募ることがあるようであるが、あれなどもやはりこのイブラヒム老人の入れ歯・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・近頃絵が面白くなった末から二番目の八重子は水彩絵具と筆とを買って規定の金額は一度に使ってしまった。末の冬子は線香花火や千代紙やこまごました品を少しずつしか買わないので、配当されたわずかな金が割合に長く使いでがあるようであった。そういう事実は・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
・・・然レドモ其ノ金額日々拾円ヲ下ラザルコト往々ニシテ有リ。之ヲ以テ或ハ老親ヲ養フモノアリ或ハ病夫ノタメニ薬ヲ買フモノアリ。或ハ弟妹ニ学資ヲ与フルモノアリ。或ハ淫肆放縦ニシテ獲ル所ノモノハ直ニ濫費シテ惜シマザルモノアリ。各其ノ為人ニ従ツテ為ス所ヲ・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・私は蛞蝓に会う前から、私の知らない間から、――こいつ等は俺を附けて来たんじゃないかな―― だが、私は、用心するしないに拘らず、当然、支払っただけの金額に値するだけのものは見得ることになった。私の目から火も出なかった。二人は南京街の方へと・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・大蔵省においては期せずして歳出を減じたることなれば、その金額をもってただちに帝室費を増加し、帝室はこの増額をもって学校保護の用にあてられたらば、さらに出納の実際に心配なくして事を弁ずること、はなはだ容易なるべし。ただに実際に心配なきのみなら・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・暮までに金額にしてどの位のものが送られているか知らして頂けたら、子供へ上げるものもそれで見当がついて便利ではないでしょうか。 スタンダールは、すっかり読み返してみようとしていたのに病気になってしまいました。たしかに相当の作家です。「ナポ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・朝日新聞が、特別寄稿料として三十万円片山氏におくったと、ジャーナリズムでいわれているが、この金額を三六〇でわった千ドル弱で西ヨーロッパとアメリカが巡遊できようとも思えない。片山哲が首相であった時、一般都民が高い都民税に苦しんだ頃、同氏の税額・・・ 宮本百合子 「再武装するのはなにか」
○床の間の上の長押に功七級金鵄勲章の金額のところはかくれるような工合に折った書類が 茶色の小さい木の椽に入ってかかっている、針金で。○大きい木の椽に、勲八等の青色桐葉章を与う証が入っている。「三万五千五百八十四号ヲ以・・・ 宮本百合子 「Sketches for details Shima」
出典:青空文庫