・・・白い桔梗と、水紅色の常夏、と思ったのが、その二色の、花の鉄線かずらを刺繍した、銀座むきの至極当世な持もので、花はきりりとしているが、葉も蔓も弱々しく、中のものも角ばらず、なよなよと、木魚の下すべりに、優しい女の、帯の端を引伏せられたように見・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・は火鉢の横に侍坐せしめられ、駕籠屋の腕と云っては時代違いの見立となれど、文身の様に雲竜などの模様がつぶつぶで記された型絵の燗徳利は女の左の手に、いずれ内部は磁器ぐすりのかかっていようという薄鍋が脆げな鉄線耳を右の手につままれて出で来る。この・・・ 幸田露伴 「貧乏」
・・・綸は鉄線の如くになった。水面に小波は立った。次いでまた水の綾が乱れた。しかし終に魚は狂い疲れた。その白い平を見せる段になってとうとうこっちへ引寄せられた。その時予の後にあってたまを何時か手にしていた少年は機敏に突とその魚を撈った。 魚は・・・ 幸田露伴 「蘆声」
出典:青空文庫