・・・ 連り亘る山々の薄墨の影の消えそうなのが、霧の中に縁を繞らす、湖は、一面の大なる銀盤である。その白銀を磨いた布目ばかりの浪もない。目の下の汀なる枯蘆に、縦横に霜を置いたのが、天心の月に咲いた青い珊瑚珠のように見えて、その中から、瑪瑙の桟・・・ 泉鏡花 「鷭狩」
・・・月の光は幾重にも重った霊廟の屋根を銀盤のように、その軒裏の彩色を不知火のように輝していた。屋根を越しては、廟の前なる平地が湖水の面のように何ともいえぬほど平かに静に見えた。二重にも三重にも建て廻らされた正方形なる玉垣の姿と、並んだ石燈籠の直・・・ 永井荷風 「霊廟」
脚本作者ピエエル・オオビュルナンの給仕クレマンが、主人の書斎の戸を大切そうに開いた。ちょうど堂守が寺院の扉を開くような工合である。そして郵便物を載せた銀盤を卓の一番端の処へ、注意してそっと置いた。この銀盤は偶然だが、実際あ・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
出典:青空文庫