・・・すべての交戦国にとって銃後というものは存在しなくなった。戦災という言葉は戦争によってひきおこされた輪の外での災難を意味してつかわれているようだけれども、そして、なにか附随的な現象であり、それは、のがれたものとのがれられなかったものとは本人た・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・職業紹介所は更に最近労務資源枯渇の現状に鑑み、銃後女子勤労要員制度というのを編み出した。十四歳から四十五歳迄の女子に三ヵ月ずつ期間を区切って午前十時から午後三時迄日給六拾銭で工場の労働をさせる。もともと家庭婦人の動員を眼目にしているから托児・・・ 宮本百合子 「働く婦人」
・・・毎月十七日に発行されているのであるが、八月十七日の分に、「銃後」というきわめて短い感想を森茉莉氏が書いておられた。それは僅か、二三枚の長さの文章である。「私達はいつの間にかただの女ではなく『銃後の女性』になってしまっていた。一朝事があれば私・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
・・・前線、銃後の区別なく、互に互の命を気づかって暮していた家庭は、再び家庭らしいものを形づくることが出来るようになったと思われた。しかし、現実生活の隅々が落着いて目に映りはじめた時、婦人は男が還ったという喜び以上の、新しい驚愕と不安に、心づいた・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・よしんば実際にやりくれなくても、今日の銃後精神のためにそんな苦情をいうことは間違っていると力説をしたものであった。ある評者がその夫人の文章を女でなくては書けないひどい文章であるというのをきいた。 私たち女は女でなくては書けないような非常・・・ 宮本百合子 「私の感想」
出典:青空文庫