・・・山羊皮外套を雪の上へぬぎすて農民みたいな男が、車の下に這いこんだ。防寒靴の足の先だけが此処から見える。 日はキラキラさしている。雪は凍ってる。寒い。赤い房のついた三角帽をかぶった蒙古少年が雪をこいで、低い柵のむこうの家の見える方へ歩いて・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・ 冬だと、誰でも靴の上にもう一つ重ねてフェルトの厚ぼったい防寒靴をはいて外を歩くのだが、ところによると映画館でもそれを脱がなければならないところがある。そして、下足に預ける。皆がそれをやるからひどい混雑でいやな思いもする。近所のその映画・・・ 宮本百合子 「映画」
・・・本当は新しい防寒靴をもうとっくに買わなければならない筈なんだ。底でゴムの疣が減っちまったら、こんな夜歩けるものじゃない。 橋へ出た。木の陸橋だ。下を鉄道線路が通っている。前を三人若いコムソモルカらしい労働婦人が足を揃え、雨をかまわず熱心・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
・・・ 防寒のために荒羅紗を入れ、黒い油布を張った上から鋲をうちつけた、あたりまえのロシアの戸だ。そこが「学者の家」の常用口だ。一番下に「風呂」という札が出ている。風呂はどこになるのか誰のためにその札が出してあるのか分らない。 中庭がある・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・ニーナは、寝室の下から長い防寒靴を出してはき、頭を暖かい毛のショールできっちりくるむと、雪の凍っている往来へでた。寒さでニーナの頬っぺたが忽ち赭くなる。息は白く見える。同じように白い息をはきはき、大勢の男や女が勤めへ向って急ぎ足で歩いている・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の三月八日」
・・・学用品から弁当、寒いところだから必要な防寒具まで小供のためには国家が出そうとしている。母親として、誰がこのことに冷淡でいられましょう! 住居のことがある。ソヴェト同盟ではどしどし新しい労働者住宅が建つ、家賃が年々下る。自分の区にも、便利・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の婦人と選挙」
・・・外套の下に上靴と防寒靴が三足かためてあった。窓から二米はなれて湯槽があった。黒い髪だけが湯槽の外へ見えた この間こんな絵を見た。やっぱり今ここに在る通り湯槽から頭だけが見えて居る。これは禿げた爺のロチョー部だったが、戸が一寸すいて八つの・・・ 宮本百合子 「無題(七)」
・・・――人形は人形だが、こしらえものの雪の中に立って防寒具をつけた兵士人形です。人がウンとたかっているのはそれを見ていたわけです。大きい字で「満蒙展覧会」という広告も出ている。 時間があったので一寸入って見る気になりました。 白木屋の玄・・・ 宮本百合子 「「モダン猿蟹合戦」」
・・・例えば外套、防寒靴、布地等をそういう組織で配給している。 今ソヴェトは重工業に力を入れているから軽工業の生産品はまわり切れない。その代り忠実に生産に従事して働いているものは食糧及び軽工業の生産品にも左程ひどく欠乏を感じずに暮している。・・・ 宮本百合子 「露西亜の実生活」
・・・ 十分暖い。防寒靴はだいぶ古で、歩くとパクつくが、何! これがソヴェト五ヵ年計画に障害を来すわけでもないさ。―― ワーニカは、わいわい云いながら入口で防寒靴をぬいでる一かたまりの男女学生の中に、見なれた円い緑色の毛糸帽を見つけた。・・・ 宮本百合子 「ワーニカとターニャ」
出典:青空文庫