・・・苦心談、立志談は、往々にして、その反対の意味の、自己吹聴と、陰性の自讃、卑下高慢になるのに気附いたのである。談中――主なるものは、茸で、渠が番組の茸を遁げて、比羅の、蛸のとあのくたらを説いたのでも、ほぼ不断の態度が知れよう。 但し、以下・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・女は陰性也。陰は夜にて暗し。故に女は男に比るに愚にて、目前なる然べきことをも知らず、又人の誹るべき事をも弁えず、我夫我子の災と成るべきことをも知らず、科もなき人を怨怒り呪詛ひ、或は人を妬憎て我身独立んと思へど、人に憎れ疏れて皆我身の仇と成こ・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・例えば女子の天性を男子よりも劣るものと認め、女は陰性なり、陰は暗しなど、漠然たる精神論を根本にして説を立つるが如きは、妄漫無稽と称すべきなれども、その他は大抵皆女子を戒めたる言の濃厚なるものに過ぎず。我輩がかつて戯れに古人の教えを評し、町家・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ 昨今のように、一般の社会状勢が息苦しく切迫し、階級対立が最も陰性な形で激化しているような時期に、鬱屈させられている日常生活のせめてもの明るい窓として、溌剌として、新しい恋愛がどことなし人々の心に翹望されていることは感じられる。しかも、・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・ 猫の、いやに軟い跫音のない動作と、ニャーと小鼻に皺をよせるように赤い口を開いて鳴きよる様子が、陰性で、ぞっとするのである。 飼うのなら犬が慾しいと思ったのは、もう余程以前からのことだ。結婚後、散歩の道づれに困ることを知ってその心持・・・ 宮本百合子 「犬のはじまり」
・・・故にする方は、前もって、その底まで考える必要あり。陰性の我ままと云うべし。 自分とT先生との心持 自分とT先生との心持――寧ろ、自分のT先生に対する心持は深く、強く、ごまかし難いものだ。 師弟の関係に於て何かのよ・・・ 宮本百合子 「一九二三年冬」
・・・十九ヵ条は、先ず女を「女は陰性也、陰は夜にて暗し、故に女は男に比るに愚にて目前なる然るべきことをも知ら」ぬもの、という立て前において、さてそこから順々に女子の心得を書き連ねたものである。「女子は成長して他人の家へ行き姑に仕うるもの、夫に仕う・・・ 宮本百合子 「三つの「女大学」」
・・・多分馬関だろうと思って、僕は随分熱心に聞いて廻ったのだが、結果が陰性だった。」「随分御苦労なわけだね」と、遠慮深い戸川は主人の顔を見て云った。 主人はただにやりにやり笑っている。 富田は少し酔っているので、論鋒がいよいよ主人に向・・・ 森鴎外 「独身」
出典:青空文庫