・・・ 銭を擲げては陰陽を定める、――それがちょうど六度続いた。お蓮はその穴銭の順序へ、心配そうな眼を注いでいた。「さて――と。」 擲銭が終った時、老人は巻紙を眺めたまま、しばらくはただ考えていた。「これは雷水解と云う卦でな、諸事・・・ 芥川竜之介 「奇怪な再会」
・・・ 使 それは陰陽師の嘘でしょう。 小町 いいえ、嘘ではありません。安倍の晴明の云うことは何でもちゃんと当るのです。あなたこそ嘘をついているのでしょう。そら、返事に困っているではありませんか? 使 (独白どうもおれは正直すぎるよう・・・ 芥川竜之介 「二人小町」
・・・生霊、死霊、のろい、陰陽師の術、巫覡の言、方位、祈祷、物の怪、転生、邪魅、因果、怪異、動物の超常力、何でも彼でも低頭してこれを信じ、これを畏れ、あるいはこれに頼り、あるいはこれを利用していたのである。源氏以外の文学及びまた更に下っての今昔、・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・これ陰陽思想によりて占星家の手に成りしものなるを考へしむる也。その理は十二宮は太陽運行に基き、二十八宿は太陰の運行に基きしものなれば、陽の初なる東とその極なる南とを十二宮に、陰の初の西とその極の北とを二十八宿の星座に據らしめしものと見らるれ・・・ 白鳥庫吉 「『尚書』の高等批評」
・・・『説文』に曰く電は陰陽の激曜するなりとはちと曖昧であるが、要するに陰陽の空中電気が相合する時に発する光である。遠方の雷に伴う電光が空に映るのだが、雷鳴の音は距離が遠いのと空気の温度分布の工合で聞えぬのである。稲妻のぴかりとする時間は一秒の百・・・ 寺田寅彦 「歳時記新註」
・・・ 又女は陰性なり、陰は夜にして暗し、故に女は男に比ぶるに愚にて云々に説始め、あらん限りの悪徳を並べ立てゝ其原因は陰性なるが故なりと、例の陰陽説より割出したるこそ可笑しけれ。実に取処もなき愚論にして、痴人夢を語るとは此事ならん。抑も陰陽と・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・もしもこの限界を越ゆるときは、徳教の趣を変じて輿論に適合し、その意味を表裏・陰陽に解して、あたかも輿論に差支なきの姿を装い、もってその体をまっとうするの実を見るべし。蛮夷、夏を乱だるは聖人の憂うるところなれども、その聖人国を蛮夷に奪われたる・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・そもそもこの物理学の敵にして、その発達を妨ぐるものは、人民の惑溺にして、たとえば陰陽五行論の如き、これなれども、幸にして我が国の上等社会には、その惑溺はなはだ少なし。拙著『時事小言』の第四編にいわく、「ひっきょう、支那人がその国の広・・・ 福沢諭吉 「物理学の要用」
・・・すなわち国を立てまた政府を設る所以にして、すでに一国の名を成すときは人民はますますこれに固着して自他の分を明にし、他国他政府に対しては恰も痛痒相感ぜざるがごとくなるのみならず、陰陽表裏共に自家の利益栄誉を主張してほとんど至らざるところなく、・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・に土をめつる人奈良道や当帰畠の花一木畑打や法三章の札のもと巫女町によき衣すます卯月かな更衣印籠買ひに所化二人床涼み笠著連歌の戻りかな秋立つや白湯香しき施薬院秋立つや何に驚く陰陽師甲賀衆のしのびの賭や夜半の秋・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
出典:青空文庫