・・・左れば広き世の中には随分悪婦人も少なからず、其挙動を見聞して厭う可き者あれども、男性女性相互に比較したらんには、人非人は必ず男子の方に多数なる可し。此辺より見れば我輩は女大学よりも寧ろ男大学の必要を感ずる者なり。 婦人に七去と言う離縁の・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・今考えると随分馬鹿げた話さ。併し斯う云って来ると、一図に「正直」に忠実だったようだが、一方には実は大矛盾があったんだ。即ち大名誉心さ。……文壇の覇権手に唾して取るべしなぞと意気込んでね……いやはや、陋態を極めて居たんだ。 その中に、人生・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・隣の室に通じているのであろう。随分無趣味な装飾ではあるが、住心地の悪くなさそうな一間である。オオビュルナンは窓の下にある気の利いた細工の長椅子に腰を掛けた。 オオビュルナンは少し動悸がするように感じて、我ながら、不思議だと思った。相手の・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・一週間の碇泊とは随分長い感じがする。甲板から帰って来た人が、大山大将を載せた船は今宇品へ向けて出帆した、と告げた時は誰も皆妬ましく感じたらしい。この船は我船より後れて馬関へはいったのである。殊に第二軍司令部附であった記者は、大山大将が一処に・・・ 正岡子規 「病」
・・・ 食糧問題についても、私たちは随分長いこと、分不相応な苦痛と努力と七転八倒的なやりくりを経験して来た。多くの人々が、この問題の本質上、今日ではもう個人的解決の時期を全くすぎていて、これは人民的規模において、男女共通に、共通の方法に参加し・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・木村は随分哲学の本も、芸術を論じた本も読んでいるが、こんな詞を読んでは、何物をもはっきり考えることが出来ない。いかにも文芸には、アンデフィニッサアブルだとも云えば云われそうな、面白い処があるだろう。それは考えられる。しかしシチュアシヨンとは・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・忘れたと云えば、子供の生れるのを待って、見て来ようと思ったのですが、それを忘れて来ました。随分見たかったのですから、惜しい事をしたと思いましたよ。ところがそこに気の附いた時にはもうあとの祭でした。悲しいことは悲しいのですが、わたしだって男一・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・「それはもう、随分ありました。最初に海軍の研究所へ連れられて来たその日にも、ありました。」 栖方はそう答えてその日のことを手短に話した。研究所へ着くなり栖方は新しい戦闘機の試験飛行に乗せられ、急直下するその途中で、機の性能計算を命ぜ・・・ 横光利一 「微笑」
・・・「冬になると、随分本を読みます。だが小説は読みません。若い時は読みました。そうですね。マリイ・グルッベなんぞは、今も折々出して見ますよ。ヤアコップセンは好きですからね。どうもこの頃の人の書くものは。」手で拒絶するような振をした。 己は自・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・それから、ロビンソン、クルーソーみたように難船に逢って一人ッきり、人跡の絶えた島に泳ぎ着くなんかも随分面白かろうと考えるんです。 これまでは、ズット北の山の中に、徳蔵おじと一処にいたんですが、そのまえは、先の殿様ね、今では東京にお住いの・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
出典:青空文庫