・・・ 彼女は息子を隔離病舎へやりたくなかった。そこへ行くともう生きて帰れないものゝように思われるからだった。再三医者に懇願してよう/\自宅で療養することにして貰った。 高熱は永い間つゞいて容易に下らなかった。為吉とおしかとは、田畑の仕事・・・ 黒島伝治 「老夫婦」
・・・再び帰って来たとき時勢は如何に著しく昨日と今日との間を隔離させていたであろう。 久しく別れた人たちに会おうとて、自分は高輪なる小波先生の文学会に赴くため始めて市中の電車に乗った。夕靄の中に暮れて行く外濠の景色を見尽して、内幸町から別の電・・・ 永井荷風 「霊廟」
・・・自身の文学を、左翼から、できるだけ隔離すれば、少くともこっちは、そして自分なんかは安全だ、という誤った測定がされていた。作家の中で、執筆禁止について、発言し、なにかの意味で正しくふれた人々は、ごく少数であった。ましてや、温和なチェホフが、壮・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・一種の社会的病人であるから、その人は隔離された生活を余儀なくされる。 夜道がこわい、自分に声をかける人間がおそろしい、雨の降る日に、このかさに入ってらっしゃいとさそってくれる人がウス気味悪い、そういう社会の生活は、何と悲しいだろう。戦争・・・ 宮本百合子 「戦争でこわされた人間性」
・・・社会生活の質が変って来ていることから読者大衆と作家との関係が、従前のロシアのように、また現に他の諸国の事情がそうであるように、文化的水準で隔離されたものでなくなって来て、狭義での批評家の批評と作家とのいきさつが今日では変化していることなどが・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・国分寺の駅からよっぽど奥へ入った畑と丘の間の隔離された一郭として、これをこしらえた。十月十日、出獄した同志たちは、治安維持法撤廃によって解体する予防拘禁所から、すぐ生活に必要な寝具、日用品、食糧、家具などをトラックにつみこんで、ここへ引越し・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫