・・・一寸、そんな気がした、すると、誰れかゞ、「今度ア、伊三郎の田を入れるとて、わざと、あんな青大将のようにうね/\とうねらしてしまったんだぞ。」 こう云い出した。実際、今度は、伊三郎の田が、どいつも、こいつもひっかゝっていた。「停留・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・たまには、四五匹の青大将が畳のうえを這いまわる。おとなたちは、鼻音をたてて眠っているので、この光景を知らない。鼠や青大将が寝床のなかにまではいって行くのであるが、おとなたちは知らない。私は夜、いつも全く眼をさましている。昼間、みんなの見てい・・・ 太宰治 「玩具」
・・・それは、青大将なんです。お酒も、濁酒じゃないんです。一級酒に私がウイスキイをまぜたんです。」 しかし、私はそれから、その青年と仲よしになった。私をこんなに見事にかつぐとは、見どころがあると思った。「先生、こんど僕の家へあそびに来てく・・・ 太宰治 「母」
・・・皮膚の上に冷たい指が触るのが、青大将にでも這われるように厭な気持である。ことによると今夜のうちに使でも来るかも知れん。 突然何者か表の雨戸を破れるほど叩く。そら来たと心臓が飛び上って肋の四枚目を蹴る。何か云うようだが叩く音と共に耳を襲う・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
出典:青空文庫