・・・この次には、うんと引っぱり歩いて、こづきまわして、面皮をひんむいてやろうと思った。 いつでもお相手をするから、気のむいたときに、このおでんやに来て、そうして女中を使って僕を呼び出しなさい、と言って、握手をしてわかれたのを、私は泥酔してい・・・ 太宰治 「父」
・・・これから、彼の家へ行って細君に逢い、場合に依っては、その女神とやらの面皮をひんむいてやろうと考え、普段着の和服に二重廻しをひっかけ、「それでは、おともしましょう。」 と言った。 外へ出ても、彼の興奮は、いっこうに鎮まらず、まるで・・・ 太宰治 「女神」
・・・ ひところの日本にあった、結婚はしたくはないが、子供は欲しいという表現は、ジュヌヴィエヴが、俗人でていさいやの父親というものに代表されているフランス社会の保守の習俗にぶっつけて、その面皮をはぐことで人間の真実の生活の顔を見ようと欲した激・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・実際それは、偽善家の面皮を正直という小刀で剥いでやった、という意味で、重大な意義を持つに違いない。あるいはまた幻影に囚われた理想家を現実に引きもどした、という意味で。――しかしそれは決して以前よりも深い真実を捕えてくれたわけでなかった。それ・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
出典:青空文庫