・・・という恐怖が目覚めて、大いそぎで涙を拭く彼女は、激情の緩和された後の疲れた平穏さと、まだ何処にか遺っている苦しくない程度の憂鬱に浸って、優雅な蒼白い光りに包まれながら、無限の韻律に顫える万物の神秘に、過ぎ去った夢の影を追うのであった。・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ いかなる詩聖の言葉のかげにも又いかばかり偉大な音楽家の韻律のかげにもたとえ表面は舞い狂う――笑いさざめく華かさがあってもその見えない影にひそむ尊い悲しみが人の心を動かすものであろう。 悲しみと云っても只涙をこぼすばかりの悲しみでは・・・ 宮本百合子 「千世子(二)」
・・・「小説には詩のような韻律的拘束がないし、またはっきりしたオルソドックスの小説の拘束がないために、それを破ろうという情熱がない。それでそれを拘束する手枷・足枷みたいなもの、それを探していると、はからずも芝居にぶつかったのです。つまり芝居は・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
・・・この章は詩の形式と韻律の専門的面にかぎられて考察されているのであるが、例えばその文中で萩原朔太郎氏が「日本人の民族的感情から」反省して「しらべ」「すがた」「もののあわれ」等の内面的旋律までを考えて日本古来の詩形を不朽な規範と考える態度に対し・・・ 宮本百合子 「ペンクラブのパリ大会」
出典:青空文庫