・・・そうしてその人たちの態度には、ちょうど私自身が口語詩の試みに対して持った心持に類似点があるのを発見した時、卒然として私は自分自身の卑怯に烈しい反感を感じた。この反感の反感から、私は、まだ未成品であったためにいろいろの批議を免れなかった口語詩・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・相を知り居らぬが、種々な方面より知り得たる処では、吾国の茶の湯と其精神酷だ相似たるを発見するのである、それはさもあるべき事であろう、何ぜなれば同じ食事のことであるから其興味的研究の進歩が、遂に或方向に類似の成績を見るに至るは当然の理であるか・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・そのいろんな人々が、また、その言うところ、論ずるところの類似点を求めて、僕の交友間のあの人、この人になって行く。僕は久しぶりで広い世間に出たかと思うと、実際は暗闇の褥中にさめているのであった。持ち帰った包みの中からは、厳粛な顔つきでレオナド・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・蒙求風に類似の逸話を対聯したので、或る日の逸話に鴎外と私と二人を列べて、堅忍不抜精力人に絶すと同じ文句で並称した後に、但だ異なるは前者の口舌の較や謇渋なるに反して後者は座談に長じ云々と、看方に由れば多少鴎外を貶して私を揚げるような筆法を弄し・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・そう思うと樋口も木村もどこか似ている性質があるようにも思われますが、それは性質が似ているのか、同じ似たそのころの青年の気風に染んでいたのか、しかと私には判断がつきませんけれども、この二人はとにかくある類似した色を持っていることは確かです。・・・ 国木田独歩 「あの時分」
・・・ あらゆる方面から来る材料が一つの釜で混ぜられ、こなされて、それからまた新しい一つのものが生れるという過程は、人間の精神界の製作品にもそれに類似した過程のある事を聯想させない訳にはゆかなかった。 そのような聯想から私はふとエマーソン・・・ 寺田寅彦 「浅草紙」
・・・この際における創作的過程は映画監督のそれとかなりまで類似した点をもつであろう。道成寺の場合にはまた、初期の映画で常套的に行なわれた「追っ駆け」を基調とする構成の趣があると言われよう。 映画の場合に甲の場面から次の乙景に移る際にいわゆる溶・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・にもこれに似た唄合戦の記事があるところを見ると、これに類似の風俗はエスキモー種族の間にかなり広く行われているのではないかと思う。我邦の昔の「歌垣」の習俗の真相は伝わっていないが、もしかすると、これと一縷の縁を曳いているのではないかという空想・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
・・・生の下り坂を歩いているような老人にとっては、映画の観覧による情緒の活動が適当な刺激となり、それが生理的に反応して内分泌ホルモンの分泌のバランスに若干の影響を及ぼし、場合によってはいわゆる起死回生の薬と類似した効果を生ずることも可能ではないか・・・ 寺田寅彦 「映画と生理」
・・・しかしもし現代の読者のうちでこれと類似の怪異伝説あるいは地鳴りの現象についてなんらかの資料を教えてくれる人でもあれば望外の幸いである。 二 次に問題にしたいと思う怪異は「頽馬」「提馬風」また濃尾地方で「ギバ」と称・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
出典:青空文庫