・・・もとより、大衆と云えば直ちに一種の興奮的類型にとらわれるような幼稚な概念は揚棄されているにしろ。 結局常識の世界の方が住みよい、というような言葉によって表現される作家の或る近頃の感情や市民的平民的な日常の伝習の姿に対して和して同ぜず式な・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
・・・我々はここにも苦しむ神の類型を見ることができるであろう。物語の作者は、長者夫婦が愛児を失った時の悲嘆や、山から無理やりに連れ出されてくるときの苦しみを、特に力を入れて描写している。それはこの神々を苦しむ神として示そうとする意図を作者が持って・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・が、特に一つの類型として認められる享楽人は、一定の特性を持ったものでなくてはならない。その特性は、第一に「享楽」すなわち「味わうこと」を他の何ものよりも重んじ、それによって彼の生活に統一を求めることである。第二に、味わう能力の特にすぐれてい・・・ 和辻哲郎 「享楽人」
・・・『虞美人草』に至っては鮮やかな類型的描写によって、卑屈な利己主義や、征服欲の盛んな我欲や、正義の情熱や、厭世的なあきらめなどの心理を剔抉した。その後の諸作においては絶えずこの問題に触れてはいたが、それを著しく深めて描いたのは『心』である。こ・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
・・・しかし自分はかかる筋肉の生動が、自然的な顔面の表情を類型化して作られたものとは見ることができない。むしろそれは作者の生の動きの直接的な表現である。生の外現としての表情を媒介とすることなく、直接に作者の生が現われるのである。そのためには表情が・・・ 和辻哲郎 「能面の様式」
・・・を示すのみであって、伎楽面に見られるような一定の表情の思い切った類型化などは企てられていない。かと言って、能面のある者のように積極的な表情を注意深く拭い去ったものでもない。面におけるこのような芸術的苦心はおそらく他に比類のないものであろう。・・・ 和辻哲郎 「面とペルソナ」
出典:青空文庫