・・・しかしクラバックはこの河童たちを遮二無二左右へ押しのけるが早いか、ひらりと自動車へ飛び乗りました。同時にまた自動車は爆音を立ててたちまちどこかへ行ってしまいました。「こら、こら、そうのぞいてはいかん。」 裁判官のペップは巡査の代わり・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・ 恐ろしき声をもて老人が語れるその最後の言を聞くと斉しく、お香はもはや忍びかねけん、力を極めて老人が押えたる肩を振り放し、ばたばたと駈け出だして、あわやと見る間に堀端の土手へひたりと飛び乗りたり。コハ身を投ぐる! と老人は狼狽えて、引き・・・ 泉鏡花 「夜行巡査」
・・・と周章た格子を排けて、待たせて置いた車に飛乗りざま、「急げ、急げ!」 こんな周章ただしい忙がしい面会は前後に二度となかった。「ロスの奴滅茶々々かも解らん」とあたかも軍令部長か参謀総長でもあるかのようなプライドが満面に漲っていた。恐らくこ・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・猿芝居が終って賓客が散じた頃、鹿鳴館の方角から若い美くしい洋装の貴夫人が帽子も被らず靴も穿かず、髪をオドロと振乱した半狂乱の体でバタバタと駈けて来て、折から日比谷の原の端れに客待ちしていた俥を呼留め、飛乗りざまに幌を深く卸させて神田へと急が・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・ 先の石段をおりるや、若き女はまず僕を乗らして後、もやいを解いてひらりと飛び乗り、さも軽々と櫓をあやつりだした。少年ながらも、僕はこの女のふるまいに驚いた。 岸を離れて見上げると、徳二郎はてすりによって見おろしていた、そして内よりは・・・ 国木田独歩 「少年の悲哀」
・・・そして今にも岸をはなれようとしていますと、馬は、ふいに白いむく犬になって、いきなり船へ飛び乗り、ウイリイの足もとへしゃがみました。ウイリイはこれから長い間、海や岡をいくのにちょうどいい友だちが出来たと思って喜びました。 船は追手の風で浪・・・ 鈴木三重吉 「黄金鳥」
出典:青空文庫