・・・すべての飲料のうちで珈琲が一番旨いという先生の嗜好も聞いた。それから静かな夜の中に安倍君と二人で出た。 先生の顔が花やかな演奏会に見えなくなってから、もうよほどになる。先生はピヤノに手を触れる事すら日本に来ては口外せぬつもりであったと云・・・ 夏目漱石 「ケーベル先生」
・・・ それは、飲料水タンクを修理することだ。 若し、彼女が、長い航海をしようとでも考えるなら、終いには、船員たちは塩水を飲まなければならない。 何故かって、タンクと海水との間の、彼女のボットムは、動脈硬化症にかかった患者のように、海・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・ 秋の黄昏に廃趾の番をしていた兵士たちの肩のあたりが淋しそうである。ショウモンの砲台にはヴェルダン司令部があった。 飲料の貯水池が砲台の奥にあって、撃破されたコンクリートの天井が黒い澱み水の上に墜ちかかっているのが、ランターンのちら・・・ 宮本百合子 「女靴の跡」
・・・夜気の中でもそのほとぼりと亢奮がさめ切っていないところどころで、臨時施設の飲料水道の噴水があふれて、小さいぬかるみをこしらえている。新手な群集は子供や年寄づれで、ぞろぞろ河岸へ河岸へとねって行く。 国立百貨店の前、赤いプラカートの洪水だ・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・絶対にアルコール飲料は売らなくなる。 メーデーは神聖な世界プロレタリアートの祝日だ。ホロ酔い機嫌でデモに参加する奴なんかあっては、階級の面よごした。だから一切酒は売らない。 ロシア人は、何しろ毎日ビショビショ降りつづく十月にあの偉大・・・ 宮本百合子 「勝利したプロレタリアのメーデー」
・・・ 飲料 わたくしは緑茶をずいぶん飲みます。御飯をたべるにも緑茶を飲み飲みたべるのです。ですから人に「米搗き」なぞとからかわれます。越後の米搗きはお茶を飲み飲み御飯をたべるのだそうです。としてみるとわたくしの嗜好・・・ 宮本百合子 「身辺打明けの記」
・・・その濃い枝の下に、新聞雑誌の売店、赤い果物汁飲料のガラス瓶。 古いくり形飾を窓枠につけたロシア風な小家。それを曲って、わきの空地に馬糞がある。蠅がとんでいる。――町はずれである。 二人の日本女は、右手に見える白い大拱門を入って行った・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・ペルシア行汽船の埠頭などがあり、暑いところのためか、あっちにもこっちにも派手な水色、桃色に塗ったビール・スタンド、泉鉱飲料店を出している。海面に張り出して、からりとした人民保養委員会のレストランなども見えているが、どういう訳か遊歩道には前に・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
出典:青空文庫