・・・お君の夫がこの工場から抜かれて行ってから、工場主は恐いものがいなくなったので、勝手なことを職工達に押しつけようとしていた。首切り、それはもはやお君一人のことではなかった。――お君は面会に行った帰りに、皆の集まっている所へ行って、夫に会って来・・・ 小林多喜二 「父帰る」
・・・「こう毎日のように舟から送って来ては、首斬り役も繁昌だのう」と髯がいう。「そうさ、斧を磨ぐだけでも骨が折れるわ」と歌の主が答える。これは背の低い眼の凹んだ煤色の男である。「昨日は美しいのをやったなあ」と髯が惜しそうにいう。「いや顔は美しいが・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・ メーデーに赤い広場の歴史的首切り台に飾られた労働者の大群像は祭の後にモスクワ河の河岸にある「文化と休養の公園」の丘の上へ移された。 河岸には職業組合の設けた水浴場がある。 青葉の下の飛び込み台から身をおどらし、若い女が水へ飛び・・・ 宮本百合子 「インターナショナルとともに」
・・・ 選挙場に土足でふみこむ吉田首相が、首相として泰然自若と首切りにとりかかりはじめたのは、民自党が第一党になったからです。税に苦しめられ、物価高に苦しめられ、やっと子供を教育しようと思っている母親に、今日の新聞の文相高瀬荘太郎の話はなんと・・・ 宮本百合子 「求め得られる幸福」
出典:青空文庫