・・・中学時代になってからやっとイソップやグリムやアンデルセンにめぐり合って日本の外に他の世界があること、そこにはわれらとはよほどちがった生活と思想のあることを教えられたのであった。今の子供はコスモポリタンなお伽噺の洪水の波に押流されているような・・・ 寺田寅彦 「重兵衛さんの一家」
・・・子供の劇団がイソップ物語をやっております。切符をもらった。観にゆくつもりです。ではおやすみなさい。今はもうあなたがお寝になってから六、七時間も経っている時間です。夜番の拍子木の音が響いている。[自注22]国府津――百合子の実父た・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・孔雀の羽根に身をかざったおろかな烏や虎の威をかる狐のものがたりを書いたイソップは、奴隷であった。イソップ物語はきょうに生きつづける。だが、イソップの主人であった奴隷使役者の名前を知りたいと思う子供はいない。〔一九五〇年六月〕・・・ 宮本百合子 「動物愛護デー」
出典:青空文庫