・・・詩も作る、ヴァイオリンも弾く、油絵の具も使う、役者も勤める、歌骨牌も巧い、薩摩琵琶も出来るサア・ランスロットである。だからお君さんの中にある処女の新鮮な直観性は、どうかするとこのランスロットのすこぶる怪しげな正体を感ずる事がないでもない。暗・・・ 芥川竜之介 「葱」
・・・深山の巒気が立ちのぼるようだ。ランキのランは、言うという字に糸を二つに山だ。深山の精気といってもいいだろう。おどろくべきものだ。ううむ。」やたらに唸るのである。私は恥ずかしくてたまらない。「山椒魚がお気にいったとは意外です。どこが、そん・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・遠キハ招クガ如ク近キハ語ラントス。間少シク曲折アリ。第一曲ヨリ東北ニ行クコト三、四曲ニシテ、以テ木母寺ニ至ツテ窮ル。曲曲回顧スレバ花幔地ヲ蔽ヒ恍トシテ路ナキカト疑フ。排イテ進メバ則白雲ノ湧スルガ如ク、杳トシテ際涯ヲ見ズ。低回スルコト頃クニシ・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・ 実をいうとマロリーの写したランスロットは或る点において車夫の如く、ギニヴィアは車夫の情婦のような感じがある。この一点だけでも書き直す必要は充分あると思う。テニソンの『アイジルス』は優麗都雅の点において古今の雄篇たるのみならず性格の描写・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・騎士物語が近代小説の濫觴となっているのだが、なかで有名なランスロットを主人公とした長い物語がある。その中に美しい孤独のシャロットの姫君が登場する。テニスンが物語っているとおり古い城の塔の中に孤独な生活をしているシャロットの姫はというとその古・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・ 外壁に沿った裏通りに古本屋が露店を出し、空屋に店を出して居るところにモーランの夜開く、武郎の或女、ゾラの小説がさらしてあった。 ○壁の厚さの感じ。 五日 ひどいモローズ プーシュキン・ブルールの樹木が皆真白・・・ 宮本百合子 「一九二七年八月より」
・・・ヨーロッパの封建諸王の時代は中世の伝説に現われている通り、アーサー王やランスロットの物語によって伝えられているような騎士気質が支配していた。騎士時代のヨーロッパ女性の生活は、本質においてはやっぱり無権力なもので、夫や兄の命令は絶対であった。・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・神農もソクラテスもカントもランスロットもエレーンも乃至はお染久松もこの問題に触れた。釈尊やイエスはこれを解いて、多くの精霊を救う。この救われたる衆生が真の人生を現わしたか。救われずして地獄の九圏の中に阿鼻叫喚しているはずの、たとえば歴山大王・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫