出典:青空文庫
・・・○あれでもない、これでもない。○何も無い。○FNへチップ五円わすれぬこと。薔薇の花束、白と薄紅がよからむ。水曜日。手渡す時の仕草が問題。○ネロの孤独に就いて。○どんないい人の優しい挨拶にも、何か打算が在るのだと思うと、つ・・・ 太宰治 「古典風」
・・・更に、 寝間の窓から、羅馬の燃上を凝視して、ネロは、黙した。一切の表情の放棄である。美妓の巧笑に接して、だまっていた。緑酒を捧持されて、ぼんやりしていた。かのアルプス山頂、旗焼くけむりの陰なる大敗将の沈黙を思うよ。 一噛の歯には・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・で私たちにも馴染なネロのような王が現れるほど暴虐と頽廃が支配したからだと西洋歴史で習ったから、今フランスは文化の頽廃で敗北したときくと、一応尤ものように思えるかもしれない。日本歴史では平家の壇の浦の最後を、清盛からはじまる平家のおごりと文弱・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・例えばネロは、権力によって自己の作品を大衆に強制した。このギリシヤかぶれの暴君は、自分の作品を非難する者を容赦なく殺した。こういう方法で大衆が納得するだろうかと悲鳴をあげても始らぬ。」このロマン派の青年論客が、曩日文学の芸術性を擁護して芸術・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・亀井氏は、新しく文化が復興されるためには奴隷なきネロがいる、といっている。 文学におけるロマンチシズムは、初め十九世紀の或る進歩性として現れ、つづいて現実逃避として自身を色彩づけ、現在はドイツにおいて明らかなようにファシズムの虹として役・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・マルクス・レーニンの次に来るものは奴隷なき希臘主義者ネロでなければならない」のだそうである。「文化の再生には、必ず憑かれたもの、狂信者、専制者を必要とする」と断言されるに至って、人々は一陣の無気味な風を肌に感ぜざるを得ないのである。・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・ゴーリキイはベラゲヤをネロ時代キリスト教殉教者のように描いた。労働者ウラソフが公判廷で行う演説は、説教者くさいところもある。プロレタリア解放運動の問題を、この作品でゴーリキイは経済的・政治的基礎においてとりあげず、むしろ道徳や、美の問題と混・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・ 白百合の様な姿とダイヤの様なかがやかしい貴い気持をもったリジヤ姫、男獅子よりも強い忠僕のウリセス、ラクダの様な猿の様な狐の様な鼻まがりの悪党のチロポンピヤ、ビニチュース、ネロ、ペテロ、そうした人達の間に生れて来る大きな尊い芸術的な悲劇・・・ 宮本百合子 「芽生」