出典:青空文庫
・・・ そうサ、僕はその頃は詩人サ、『山々霞み入合の』ていうグレーのチャルチャードの飜訳を愛読して自分で作ってみたものだアね、今日の新体詩人から見ると僕は先輩だアね」「僕も新体詩なら作ったことがあるよ」と松木が今度は少し乗地になって言った。・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・ たしか浅井和田両画伯の合作であったかと思うがフランスのグレーの田舎へ絵をかきに行った日記のようなものなども実に清新な薫りの高い読物であった。その内容はすっかり忘れてしまったが、それを読んだときに身に沁みた平和で美しいフランスの田舎の雰・・・ 寺田寅彦 「明治三十二年頃」
・・・英国の歴史を読んだものでジェーン・グレーの名を知らぬ者はあるまい。またその薄命と無残の最後に同情の涙を濺がぬ者はあるまい。ジェーンは義父と所天の野心のために十八年の春秋を罪なくして惜気もなく刑場に売った。蹂み躙られたる薔薇の蕊より消え難き香・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」