・・・ お父さんがあちこち歩きながら、 「ホモイ、お前はもう駄目だ。玉を見てごらん。もうきっと砕けているから」と言いました。 お母さんが泣きながら函を出しました。玉はお日さまの光を受けて、まるで天上に昇って行きそうに美しく燃えました。・・・ 宮沢賢治 「貝の火」
・・・ふき子が緑色の籐椅子の中で余念なく細かい手芸をする、間に、「この辺花なんか育たないのね、山から土を持って来たけれどやっぱり駄目だってよ」などと話した。「あ、一寸そこにアール・エ・デコラシオンがあるでしょう? これ、そんなかからと・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・ゴルキイのような vagabondage をして愉快を感じるには、ロシア人のような遺伝でもなくては駄目らしい。やはりけちな役人の方が好いかも知れないと思って見る。そしてそう思うのが、別に絶望のような苦しい感じを伴うわけでもないのである。・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・「感覚派も根本から感覚派にならねば駄目だ。」と。此の言葉は自分には意味が通じない。人間として根本から純然たる感覚活動をなし得るものがあるなら、その者は動物に他ならない。悟性活動をするものが人間で、その悟性活動に感覚活動を根本的に置き代えるな・・・ 横光利一 「新感覚論」
出典:青空文庫