或木曜日の晩、漱石先生の処へ遊びに行っていたら、何かの拍子に赤木桁平が頻に蛇笏を褒めはじめた。当時の僕は十七字などを並べたことのない人間だった。勿論蛇笏の名も知らなかった。が、そう云う偉い人を知らずにいるのは不本意だったか・・・ 芥川竜之介 「飯田蛇笏」
・・・御部屋の中には皮籠ばかりか、廚子もあれば机もある、――皮籠は都を御立ちの時から、御持ちになっていたのですが、廚子や机はこの島の土人が、不束ながらも御拵え申した、琉球赤木とかの細工だそうです。その廚子の上には経文と一しょに、阿弥陀如来の尊像が・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・――気の早い赤木君が、新聞をほうり出しながら、「行」の所へ独特のアクセントをつけて言う。そこでみんな、ぞろぞろ、休所を出て、入口の両側にある受付へ分れ分れに、行くことになった。松浦君、江口君、岡君が、こっちの受付をやってくれる。向こうは、和・・・ 芥川竜之介 「葬儀記」
・・・ 二十九日 朝から午少し前まで、仕事をしたら、へとへとになったから、飯を食って、水風呂へはいって、漫然と四角な字ばかり並んだ古本をあけて読んでいると、赤木桁平が、帷子の上に縞絽の羽織か何かひっかけてやって来た。 赤木は昔から・・・ 芥川竜之介 「田端日記」
・・・ところが卒業後まもなく、赤木桁平君といっしょに飯を食ったら、君が突然自分をつかまえて樗牛論を弁じだした。そうして先覚者だとかなんとか言って、いろいろ樗牛をほめたてた。が、自分は依然として樗牛はうそつきだと確信していたから、先覚者でもなんでも・・・ 芥川竜之介 「樗牛の事」
・・・ 「縫い音」 関としを 「やもめ倶楽部」 赤城草之介「縫い音」は、ひろく共感を誘う妻のシチュエーションであるけれども、書き出しの女性らしい文章の体質と、すこしあとの方の文章と、どこかちがって来ているのは、どうしてだった・・・ 宮本百合子 「『健康会議』創作選評」
・・・ 去年の、やはり五月、藍子が五日程行っていた赤城の話をしているうちに、尾世川まで段々乗気な顔つきになって来た。「何だかどうも私の尻までむずついて来た。――兎に角両国まででも行って見ようじゃありませんか。日がえりで海見て来るのもわるく・・・ 宮本百合子 「帆」
・・・まりは、そのころにはもう六、七年も続いて来ているので、初めとはよほど顔ぶれが違って来ていたであろうが、その晩集まったのは、古顔では森田草平、鈴木三重吉、小宮豊隆、野上豊一郎、松根東洋城など、若い方では赤木桁平、内田百間、林原耕三、松浦嘉一な・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫