・・・殊に我輩が日本女子に限りて是非とも其智識を開発せんと欲する所は、社会上の経済思想と法律思想と此二者に在り。女子に経済法律とは甚だ異なるが如くなれども、其思想の皆無なるこそ女子社会の無力なる原因中の一大原因なれば、何は扨置き普通の学識を得たる・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・政治の働は、ただその当時に在りて効を呈するものと知るべきのみ。 これに反して教育は人の心を養うものにして、心の運動変化は、はなはだ遅々たるを常とす。ことに智育有形の実学を離れて、道徳無形の精神にいたりては、ひとたびその体を成して終身変化・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・意は内に在ればこそ外に形われもするなれば、形なくとも尚在りなん。されど形は意なくして片時も存すべきものにあらず。意は己の為に存し形は意の為に存するものゆえ、厳敷いわば形の意にはあらで意の形をいう可きなり。夫の米リンスキーが世間唯一意匠ありて・・・ 二葉亭四迷 「小説総論」
・・・意は内に在ればこそ外に形われもするなれば、形なくとも尚在りなん。されど形は意なくして片時も存すべきものにあらず。意は己の為に存し形は意の為に存するものゆえ、厳敷いわば形の意にはあらで意の形をいう可きなり。夫の米リンスキーが世間唯一意匠ありて・・・ 二葉亭四迷 「小説総論」
・・・われ浮世の旅の首途してよりここに二十五年、南海の故郷をさまよい出でしよりここに十年、東都の仮住居を見すてしよりここに十日、身は今旅の旅に在りながら風雲の念いなお已み難く頻りに道祖神にさわがされて霖雨の晴間をうかがい草鞋よ脚半よと身をつくろい・・・ 正岡子規 「旅の旅の旅」
・・・われ浮世の旅の首途してよりここに二十五年、南海の故郷をさまよい出でしよりここに十年、東都の仮住居を見すてしよりここに十日、身は今旅の旅に在りながら風雲の念いなお已み難く頻りに道祖神にさわがされて霖雨の晴間をうかがい草鞋よ脚半よと身をつくろい・・・ 正岡子規 「旅の旅の旅」
・・・ 若い人には有り勝な事じゃワ、自分の心を機械かなんぞの様に解剖をしてあっちこっちからのぞくのじゃ。あげくのはてが自分の心をおもちゃにしてクルリッともんどりうたしてそれを自分でおどろいてそのまんま冥府へにわかじたての居候となり下る。妙なものじ・・・ 宮本百合子 「葦笛(一幕)」
・・・社会が階級をもっているとき文学は階級性をふくまずに在り得ない現実がのみこめた。そして、まごころをもって芸術を愛し、人間の創造力に価値を見出すものであるなら、謂わば芸術至上の現実的過程としてさえも、ブルジョア社会の文学は自身の発展のために社会・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・大変不自由な一時凌ぎの場所で、この寒い冬を迎えて勉強してゆかなければならない人も、どっさり在りましょう。学校どころか、家が戦災で失われた方々も少くないでしょう。 学校の問題については、先生と父兄とにだけ万事をまかせて、生徒として困ったこ・・・ 宮本百合子 「美しく豊な生活へ」
・・・ 武家時代の社会で君臣という動かしがたい社会の枠の中に、このようになまなまと恐ろしい人間性格の相剋が現実すること、そして、その相剋する力がその枠をとりのぞく作用としては在り得ないで、その枠内で揉み合って、枠内のしきたりによって悲劇の終末・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
出典:青空文庫