・・・ 審査委員が如何に私情ないしは私利のためにもせよ、学位授与の価値の全然ないような低能な著者の、全然無価値かあるいは間違った論文に及第点をつけることが出来ると想像する人があれば、それは学術的論文というものの本質に関する知識の全く欠如してい・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・ちょうど二学期の試験のすぐ前であったが、忙しい中から同郷の友達等が入り代り見舞に来てくれ、みんな足しない身銭を切って菓子だの果物だのと持って来ては、医員に叱られるような大きな声で愉快な話をして慰めてくれた。あの時の事を今から考えてみると、あ・・・ 寺田寅彦 「枯菊の影」
・・・また文部省内には教育映画に関する調査委員会のようなものが設けられてあるそうであるが、その業績として世間一般に広く認められているものはないようである。 しかしこの問題は現在考えられているよりはもっともっと重大な問題であって、当局者は勿論日・・・ 寺田寅彦 「教育映画について」
・・・航空輸送会社の旅客飛行機白鳩号というのが九州の上空で悪天候のために針路を失して山中に迷い込み、どうしたわけか、機体が空中で分解してばらばらになって林中に墜落した事件について、その事故を徹底的に調査する委員会ができて、おおぜいの学者が集まって・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・応募者の試験委員たちの採点表中に容貌の条項はあっても腕の条項がないかもしれないが、少なくも食堂の場合には、これも一つのかなりの程度まで考慮さるべきアイテムとなるべきものかもしれない。 器量のよくないので美しい腕の持ち主もある一方ではまた・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 去年の暮には、東京の某病院の医員だという読者から次のような抗議が来た。「然る処続冬彦集六八頁第二行に、『速度の速い云々』と有之り之は素人なら知らぬ事物理学者として云ふべからざる過誤と存じ候、次の版に於ては必ず御訂正あり度し 失・・・ 寺田寅彦 「随筆難」
・・・ 六 理学部会委員に約束しておいたのを忘れていて、今日最後の通牒を受けて驚いて大急ぎで書いたので甚だ妙なものになった。スパークのようなトランジェントな現象である。賢明なる読者の寛容を祈る。・・・ 寺田寅彦 「スパーク」
・・・それで田丸先生の場合にしても、なくなられてまもない今日、こんなものを書く気になりかねるのではあるが、理学部会編集委員のたっての勧誘によって、ほんの少しばかり自分の高等学校時代の思い出を主にして書いてみることにした。 明治二十九年の秋熊本・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
・・・ための運動委員が選ばれた時に、自分も幸か不幸かその一員にされてしまった。その時に夏目先生の英語をしくじったというのが自分の親類つづきの男で、それが家が貧しくて人から学資の支給を受けていたので、もしや落第するとそれきりその支給を断たれる恐れが・・・ 寺田寅彦 「夏目漱石先生の追憶」
・・・研究に忙しかるべき学者を、通俗講演や、科学の宣伝や、その他何々会議や何々委員や顧問に無暗に引っぱり出すのもそうである。 そんなことで科学は奨励されるものではない。唯一の奨励法は、日本にアインシュタインや、ボーアのような学者を輩出させるこ・・・ 寺田寅彦 「鑢屑」
出典:青空文庫