・・・人の権利を知らず、恰も之を男子手中の物として、要は唯服従の一事なるが故に、其服従の極、男子の婬乱獣行をも軽々に看過せしめんとして、苟も婦人の権利を主張せんとするものあれば、忽ち嫉妬の二字を持出して之を威嚇し之を制止せんとす。之を喩えば青天白・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・というものの実体も、現実を掘り下げてみれば、ぶつかっているのはマルクシズムよりも、より手前にある治安維持法の威嚇である。多くの人は、人間が野蛮と暴力に耐えがたいという自然な弱さで――それだからこそ人民は非人間的権力や戦争に反対してたたかうこ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・上の弟が夜あけに不図目をあけたら、足許の戸棚のところに何か黒いものが見えたので、何の気なしに起きかえったらそれは人間の姿で、懐に手を入れ一種威嚇の勢を示した。上の弟は、一言も発せず、そのまんま又仰向けに臥てしまった。 二番目の弟は学期試・・・ 宮本百合子 「からたち」
・・・平気でバサリとやる馘首も、惨澹たる生存威嚇であるという事実にまで思い及んで。―― ところが、四月号の『中央公論』に「極東情勢の新展開と日本」という座談会記事がある。ニューヨーク・タイムズ東京支局長リンゼー・パロット氏、AP東京支局長ラッ・・・ 宮本百合子 「鬼畜の言葉」
・・・ こういう威嚇ばかりでなく、警察では例えば拘留がきまると親族に通知して貰えるキマリである。が、留置場で見ていると、大抵の看守は、いきなり、「通知人ありか、なしか」と訊いた。または、「ここへ通知人ナシと書け」という。不馴れ・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・人民の一人一人を吊りあげることも出来ると威嚇した人権蹂躪制度とその施設が無力なものとさせられてゆく姿をうつしたこのニュース映画は、素朴な描写のうちに溢れる濤のような自由への渇望を語っていた。 そのような新しい潮におされて、まだ日本独特の・・・ 宮本百合子 「三年たった今日」
・・・離婚後の扶助料を以て暗々裡に良人を威嚇しつつ同棲生活を続ける夫人連や、利己的の恥ずべき動機から離婚訴訟を起して、良人の心に致命傷を与えるのみならず、自分の魂にまで泥をかける或種の、数に於て多い夫人達がどうして自覚ある人格者と申せますでしょう・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・大体今回の執筆禁止は文壇をつよく衝撃したが、全般的にはどこやら予期していたものが来た、その連中はやむを得まい、却ってそれで範囲がきまってすこし安心したような気分もあり、だが、拡大するという威嚇で、やはり不安、動揺するという情況である。文芸家・・・ 宮本百合子 「一九三七年十二月二十七日の警保局図書課のジャーナリストとの懇談会の結果」
・・・その理由は、この事件の取調べは、検事側の威嚇と独断と術策によってすすめられたもので、人権は蹂躙された。したがって被告としては各自にとって事実無根の公訴をみとめることができないというのが、共通の趣旨であった。二十九歳の元検査掛の被告竹内景助が・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・ そして、これは、お前達を不仕合わせな目に合わせないため、よく育ててやりたいために親切に作られたものであるという説明を、或るときは優しい愛撫とともに、或るときは激しい威嚇を伴って繰返し繰返しとかれたにも拘らず、彼女はその言葉、その態度、・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
出典:青空文庫