・・・ 週期的ではないが、リーゼガング現象といくぶん類似の点のあるのは、モチの木の葉の面に線香か炭火の一角を当てるときにできる黒色の環状紋である。これについては現に理化学研究所平田理学士によって若干の実験的研究が進行しているが、これもやはり広・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・中ニ花柳ノ一郭アリ。根津ト曰フ。地ハ神祠ニ因ツテ名ヲ得タリ。祠ハ即根津神社ナリ。祠宇壮麗。祠辺一区ノ地、之ヲ曙ノ里ト称シ、林泉ノ勝ニ名アリ。丘陵苑池、樹石花草巧ニ景致ヲ成ス。而シテ園中桜樹躑躅最多ク、亦自ラ遊観行楽ノ一地タリ。祠前ノ通衢、八・・・ 永井荷風 「上野」
・・・恐らく徳川幕府の時代から、駒込村の一廓で、代々夏の夜をなき明したに違いない夥しい馬追いも、もうあの杉の梢をこぼれる露はすえない事になった。 種々の変遷の間、昔の裏の苺畑の話につれ、白と云う名は時々私共の口に上った。 けれども、以来犬・・・ 宮本百合子 「犬のはじまり」
・・・ このことからある人々の考えるように、雑誌を中心として広汎な意味でのプロレタリア作家たちが一城一廓をかまえ群雄割拠する状態と固定させて見るのは正当を欠く観察であろうと思われる。目下は、旧「ナルプ」時代に欠けていた発表場面の自主的な開発、・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・と頭を振ったり何かしていきりたつので、笑ってすんでしまいはしたけれ共、あんなじゃあきっと銀行でも毛虫あつかいにされて居るのだろうと思うと、旦那様、お父さんと一角尊がって居る家の者達が気の毒な様にもなったりした。 極く明けっ放しな・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
・・・ ひろ子たちが今住んでいる弟の家は、その坂をのぼって少し行った焼けのこりの一郭にあった。十月十四日の朝、網走から上野へついた重吉は、十三年前ひろ子とはじめて持った家を目当にさがして来て、三時間もその辺をぐるぐる迷ったのであった。 お・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・「かかる官府の豹変は平安盛時への復帰とも解釈されるし、また政府の思想的一角が今日、俄かに欧化した」とも云い得るかのようであるが、実際には帝国芸術院が出来ると一緒に忽ち養老院、廃兵院という下馬評が常識のために根をすえてしまった。「新日本文化の・・・ 宮本百合子 「矛盾の一形態としての諸文化組織」
・・・ 同じ形をした同じ枝の葉でも□(でも、その一角でも赤か黄にそまって居ると人は目につける。それが死ぬ間ぎわの色でも……人間も木の葉とそんなに変らなく一寸色が変って居ると目立つものだ。 田舎に育った娘は、しずかなチラット白眼・・・ 宮本百合子 「芽生」
・・・まさかお父う様だって、草昧の世に一国民の造った神話を、そのまま歴史だと信じてはいられまいが、うかと神話が歴史でないと云うことを言明しては、人生の重大な物の一角が崩れ始めて、船底の穴から水の這入るように物質的思想が這入って来て、船を沈没させず・・・ 森鴎外 「かのように」
壱 小倉の冬は冬という程の事はない。西北の海から長門の一角を掠めて、寒い風が吹いて来て、蜜柑の木の枯葉を庭の砂の上に吹き落して、からからと音をさせて、庭のあちこちへ吹き遣って、暫くおもちゃにしていて、と・・・ 森鴎外 「独身」
出典:青空文庫