・・・小川は吭が乾くので、急須に一ぱい湯をさして、茶は出ても出なくても好いと思って、直ぐに茶碗に注いで、一口にぐっと呑んだ。そして着ていたジャケツも脱がずに、行きなり布団の中に這入った。 横になってから、頭の心が痛むのに気が附いた。「ああ、酒・・・ 森鴎外 「鼠坂」
・・・文明十七年の山城の国一揆、長享二年の加賀の一向一揆などはその著明な例である。これらは兼良の没後数年にして起こったことであるが、世界の情勢からいうと、インド航路打通の運動がようやくアフリカ南端に達したころの出来事である。 このころ以後の民・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
ロシアの都へ行く旅人は、国境を通る時に旅行券と行李とを厳密に調べられる。作者ヘルマン・バアルも俳優の一行とともに、がらんとした大きな室で自分たちの順番の来るのを待っていた。 霧、煙、ざわざわとした物音、荒々しい叫び声、息の詰まるよ・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫