・・・という言葉が囁かれている。しかし戦争中の話をしているのではない、警察の手入れのことを「警報」という隠語で伝達しているのである。どんなに極秘にされた抜打ちの手入れでも、事前に洩れる。これが「警戒警報」だ。当日いよいよ手入れが始まると、直ちに「・・・ 織田作之助 「大阪の憂鬱」
・・・わざと隠語を使って断ると、そうですか、じゃ今度またと出て行った。 ほかの客に当らずに出て行った所を見ると、どうやら私だけが遊びたそうな顔をしていたのかと、苦笑していると、天辰の主人はふと声をひそめて、「今の男は変ったポン引ですよ。自・・・ 織田作之助 「世相」
・・・と若い子は眉をひそめてまじめに言い、それから私にはよくわからない「花柳隠語」とでもいうような妙な言葉をつかって、三人の紋附の芸者が大いに言い争いをはじめた。 しかし、私の思いは、ただ一点に向って凝結されていたのである。炬燵の上にはお料理・・・ 太宰治 「チャンス」
・・・無論前者は韻語の一行で、後者は長い散文小説中の一句であるから、前後に関係して云うと、種々な議論もできますが、この二句だけを独立させて評して見ると、その技巧の点において大変な差違があります。それはあとから説明するとして、二句の内容は、二句共に・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
出典:青空文庫