・・・と胡散くさい目をしながら、「何は、金之助さんは四五日見えませんね?」 お光は黙って顔を眺めた。「あの人は何でしょう、前から何も親方と知合いというわけじゃないんでしょう?」「深い知合いというでもないが、小児の時学校が一緒とかで、顔・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・ 一匹の犬が豊吉の立っているすぐそばの、寒竹の生垣の間から突然現われて豊吉を見て胡散そうに耳を立てたが、たちまち垣の内で口笛が一声二声高く響くや犬はまた駆け込んでしまった。豊吉は夢のさめたようにちょっと目をみはって、さびしい微笑を目元に・・・ 国木田独歩 「河霧」
・・・おとなしく立っている女ばかり数人の私たちでさえ、いやな気がしてじっと一つところにはいられなかったほど、胡散くさい背広の男たちにつきまとわれた。行進が上野の山へ集合した頃、私たちは群集におされながら、松坂屋の先の、時計屋の大きい飾窓の下におし・・・ 宮本百合子 「メーデーに歌う」
出典:青空文庫