・・・芸術論の中に云われているとおり、芸術はあるものを写すものではなくって、あるべきものを描き出すのであるとすれば、氏の芸術が中産階級の生活を描いた時、その思想や感情が現在あるもののみを写す限度に止るようなことは、決して作者としての自己に許し得な・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・戦争については、吉日を選び、方角を考えて時日を移すというような、迷信からの脱却を重大な心掛けとして説いている。その他正直者の重用を説き、理非を絶対に曲げてはならないこと、断乎たる処分も結局は慈悲の殺生であることなどを力説しているのも、目につ・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・を区別したことは、君の作画の態度と照合して注目に価する。一般に意味せられている写実とは、「事実」を写すのである。しかし芸術の名に価する写実は「真実」を写したものでなくてはならない。そうしてこの「真実」は写す人の心の内にある。同じ自然を写して・・・ 和辻哲郎 「『劉生画集及芸術観』について」
出典:青空文庫