・・・ 近代の文学者の中で、ニイチェほど大きく、且つ多方面に影響をあたへたものはない。思想方面では、レーニンやトロツキイの共産主義者を始め、それの対蹠であるファッショや強権主義者等までが、多少みな間接にニイチェの影響を蒙つて居る。文学の方・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・―― 安岡は、そんな下らないことに頭を疲らすことが、どんなに明日の課業に影響するかを思って、再び、一二三四と数え始めた。が、彼が眠りについたのは、起きなければならない一時間前であった。 その次の夜であった。 安岡は前夜の睡眠不足・・・ 葉山嘉樹 「死屍を食う男」
・・・啻に自身の不利のみならず、男子の醜行より生ずる直接間接の影響は、延て子孫の不幸を醸し一家滅亡の禍根にこそあれば、家の主婦たる責任ある者は、自身の為め自家の為め、飽くまでも権利を主張して配偶者の乱暴狼藉を制止せざる可らず。吾々の勧告する所なり・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ する中に、知らず識らず文学の影響を受けて来た。尤もそれには無論下地があったので、いわば、子供の時から有る一種の芸術上の趣味が、露文学に依って油をさされて自然に発展して来たので、それと一方、志士肌の齎した慷慨熱――この二つの傾向が、当初・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・人間世界の善悪が、善悪の外に立つ神の世界の恋に影響のしようがない。しかし火つけが悪い事と感じた瞬間には、本心に咎める所があって、あんな事をせなんだら善かったと思わずには居られまいと思うがどうであろうか。なかなか以てそんな事は思わぬ。それなら・・・ 正岡子規 「恋」
・・・そればかりでなく、みんなのブラボオの声は高く天地にひびき、地殻がノンノンノンノンとゆれ、やがてその波がサンムトリに届いたころ、サンムトリがその影響を受けて火柱高く第二の爆発をやりました。「ガーン、ドロドロドロドロ、ノンノンノンノン。」・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・では、ナチス治下の教育が、どんなにドイツの少年たちを毒しているかをあからさまにしたもので、映画化され、世界に深甚な影響をあたえた。エリカ・マンはまた子供のための冒険物語「シュトッフェルの海外旅行」をも書いているそうである。 ナチス・ドイ・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・この辺は凶年の影響を蒙ることが甚しくて、一行は麦に芋大根を切り交ぜた飯を食って、農家の土間に筵を敷いて寝た。飛騨国では高山に二日、美濃国では金山に一日いて、木曽路を太田に出た。尾張国では、犬山に一日、名古屋に四日いて、東海道を宮に出て、佐屋・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・この深度は作家の作品に影響しないはずがない。宇野浩二氏の『子の来歴』に一番打たれた人々も子のない人に多いのは、観賞に際してもあまりに曇りがなかったからに違いない。 よく作家が寄ると、最後には、子供を不良少年にし、餓えさせてしまっても、ま・・・ 横光利一 「作家の生活」
・・・これがまた逆にヨーロッパに影響して、二十世紀の初めまで、相当に教養の高い人すらも、アフリカの土人は半獣的な野蛮人である、奴隷種族である、呪物崇拝のほか何も産出することのできなかった未開民族である、などと考えていたのであった。 が、この奴・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
出典:青空文庫