・・・…… 昔、支那に、ある天子さまがあって、すべての国をたいらげられて、りっぱな御殿を建てて、栄誉・栄華な日を送られました。天子さまはなにひとつ自分の思うままにならぬものもなければ、またなにひとつ不足というものもないにつけて、どうかしてでき・・・ 小川未明 「不死の薬」
・・・時代の風潮は遊廓で優待されるのを無上の栄誉と心得て居る、そこで京伝らもやはり同じ感情を有して居る、そこで京伝らの著述を見れば天明前後の社会の堕落さ加減は明らかに写って居ますが、時代はなお徳川氏を謳歌して居るのであります。しかし馬琴は心中に将・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・昨日のやさしき王は、一朝にしてロオマ史屈指の暴君たるの栄誉を担った。かつて叡智に輝やける眉間には、短剣で切り込まれたような無慙に深い立皺がきざまれ、細く小さい二つの眼には狐疑の焔が青く燃え、侍女たちのそよ風ほどの失笑にも、将卒たちの高すぎる・・・ 太宰治 「古典風」
・・・実際平生丈夫な人の中には、無理をして病気をこじらせるのを最高の栄誉と思っているのではないかと思われる人もあるようである。 自慢にならぬことを自慢するようで可笑しいが、自分などは冬中はいつでも半分風邪を引いている。詳しく言えば、風邪の症状・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・ こういう場合に傍観者から見て最も滑稽に思われることは、この有機的体系の素材として使用された素材自身、もしくはその供給者が、その素材を使って立派なものを作り上げ、そうして名工としての栄誉を博した陶工に対して不平怨恨の眼を向けるという事実・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・これ以外にも学界その他から得た栄誉の表章は色々あるがここには述べ悉し難い。 末広君の学術方面の業績は多数にあって到底ここで詳しく紹介することは出来ないし、またそれは工学方面の事に迂遠な筆者の任でもないが、手近な主だったものだけを若干列挙・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・ 八十八 科学者の不遇 科学者が世界の文明に貢献し自国の栄誉を高めつつあるにもかかわらず一般に不遇であるのは何処も同じと見える。近頃英国の某新聞で陸海軍人の待遇を論じたのについて某科・・・ 寺田寅彦 「話の種」
・・・乍チニシテ島原ノ妓楼廃止セラレテ那ノ輩這ノ地ニ転ジ、新古互ニ其ノ栄誉ヲ競フニオヨンデ、好声一時ニ騰々タルコトヲ得タリ。現在大楼ト称スル者今其ノ二三ヲ茲ニ叙スレバ即曰ク松葉楼曰ク甲子楼曰ク八幡楼、曰ク常盤楼、曰ク姿楼、曰ク三木楼等、維們最モ群・・・ 永井荷風 「上野」
・・・ 学士会院が栄誉ある多数の学者中より今年はまず木村氏だけを選んで、他は年々順次に表彰するという意を当初から持っているのだと弁解するならば、木村氏を表彰すると同時に、その主意が一般に知れ渡るように取り計うのが学者の用意というものであろう。・・・ 夏目漱石 「学者と名誉」
・・・けれどもわれらは社会に対する栄誉の貢献によってのみ傑出すべきである。傑出を要求するの最上権利は、凡ての時において、われらの人物如何とわれらの仕事如何によってのみ決せらるべきである。 先生のこの主義を実行している事は、先生の日常生活を別に・・・ 夏目漱石 「博士問題とマードック先生と余」
出典:青空文庫