・・・先生が世界に又とない彫物師で、人の体を彫る人だということは、お前も知っているだろう。そこで相談があるのだ。一寸裸になって見せては貰われまいかと云っているのだ。どうだろう。お前も見る通り、先生はこんなお爺いさんだ。もう今に七十に間もないお方だ・・・ 森鴎外 「花子」
・・・ しかし結局、身辺小説といわれているものに優れた作品の多いことは事実であり、またしたがって当然でもあるが、私はたとい愚作であろうとかまわないから、出来得る限り身辺小説は書きたくないつもりである。理由といっては特に目立った何ものもない。た・・・ 横光利一 「作家の生活」
・・・「エルリングです」と答えて、軽く会釈して、男は出て行った。 エルリングというのは古い、立派な、北国の王の名である。それを靴を磨く男が名告っている。ドイツにもフリイドリヒという奴僕はいる。しかしまさかアルミニウスという名は付けない。こ・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
フロベニウスの『アフリカ文化史』は、非常に優れた書であるとともにまた実におもしろい書である。そのおかげでニグロの生活は我々の追体験し得るものとなり、ニグロの文化は我々の理解し得るものとなる。我々はそれによっていわゆる未開人をいかに見る・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
出典:青空文庫