何ヲ書コウトイウ、アテ無クシテ、イワバオ稲荷サンノ境内ニポカント立ッテイテ、面白クモナイ絵馬眺メナガラ、ドウシヨウカナア、ト心定マラズ、定マラヌママニ、フラフラ歩キ出シテ、腐リカケタル杉ノ大木、根株ニマツワリ、ヘバリツイテ・・・ 太宰治 「走ラヌ名馬」
・・・中には閻魔の巾着、浦島の火打箱などといういかがわしいものもあるにはあるのである。また『諸国咄』の一項にも「おの/\広き世界を見ぬゆへ也」とあって、大蕪菜、大鮒、大山芋などを並べ「遠国を見ねば合点のゆかぬ物ぞかし」と駄目をおし、「むかし嵯峨の・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・という題で、絵馬か覗きからくりの絵からでも進化したような絵があったが、あれにもやはり無限に近づこうとする努力の第一歩がないとは云われなかった。それからゴーホを煮しめたとでも云ったしょうな「深草」や、田舎芝居の書割を思い出させる「一力」や、こ・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・ 縁日の事からもう一人私の記憶に浮び出るものは、富坂下の菎蒻閻魔の近所に住んでいたとかいう瞽女である。物乞をするために急に三味線を弾き初めたものと見えて、年は十五、六にもなるらしい大きな身体をしながら、カンテラを点した薦の上に坐って調子・・・ 永井荷風 「伝通院」
・・・即ちむかし閻魔堂橋のあったあたりである。しかし今は寺院の堂宇も皆新しくなったのと、交通のあまりに繁激となったため、このあたりの町には、さして政策の興をひくべきものもなく、また人をして追憶に耽らせる余裕をも与えない。かつて明治座の役者たちと共・・・ 永井荷風 「深川の散歩」
・・・笊の中に子供を入れたので、ざる餓鬼やざる柿サ。閻魔様が舌を出してその上に石を載せてる処はどうだ。閻魔舌の力持サ。古いネ。お話が古くなっていけないというので墨水師匠などはなるたけ新しい処を伺うような訳ですが手前の処はやはりお古い処で御勘弁を願・・・ 正岡子規 「煩悶」
・・・簡便に行わるべき書籍の出納場が、あんなに高い、絵にある閻魔の大机のようなのなどは寧ろ愉快な滑稽だ。閲覧室内を監督するようにと云う意味もあるのだろうが。 この書籍館書目について、私の面白いと思ったことは、編輯ぶり――書籍整理の方法が、ちっ・・・ 宮本百合子 「蠹魚」
出典:青空文庫