・・・ そういう時、若し、苦悩や悔恨の鞭を感じないのなら、それまでの愛は、それ限りの強さで、人格的の影響を持っていたので、つまり、その人に運命的なものでは無かったのです。 自分は全力を尽して、踏み誤った一歩を還すでしょう。然し、永劫に、誤・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・「開墾仲間寅公」 猪狩満直 私は北海道へ行ったことがあるので、作者が荒々しい開墾地をかこむ自然の雄大さなどを描こうとしている心もちがよく分って読んだ。然し、寅公が六年も辛棒した揚句に、折角辛苦した土地をすてて故郷へかえらねばならな・・・ 宮本百合子 「小説の選を終えて」
・・・ この方面ばかりでなく、宿屋が並んだ表通りを一寸裏へ入ると、どこでも北海道の開墾地へ行ったような有様なのであった。 彼等は、元湯共同浴場と立札のあるところへつき当った。道が二筋にそこで岐れている。「どっち?」 眺め廻し、なほ・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
・・・ 大衆の中の進歩的要素と知識人が、懺悔的な悔恨的な感傷で大衆を一般化して考え、それに対し勝な昨今の弱点を餌として、三木清氏のような全体的の哲学が闊歩するのであるし、亀井貫一郎氏の速記録改竄問題をひきおこすのである。 ヒューマニズムは・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・自分に不当な苦痛や罵詈を与えた者達は、最後まで正しかった者の死屍に対して、どんな悔恨に撃たれながら、頭を垂れるだろう、白い衣を着せられ、綺麗な花で飾った柩に納められた自分が、最後の愛情によって丁寧に葬られる様子が、まざまざと目前に浮み上って・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ 彼女は、いささかの苦痛、可哀そうだった、という悔恨は感じなかったのだろうか。あの笑い! 毎日毎日、変転して行く生活の裡で、たとい彼女が瞬間、心の痛みを感じたとしても、それを、今、この場所まで持ち続けて来ることは不可能であろう。・・・ 宮本百合子 「追想」
・・・ 魂の深みを顧みて見ると、そういう風な悔恨を沁々と味わずには居られない。 此は決して郷愁がさせる業でもなければ、感傷主義の私生児でもない。其は確だ。一つでも、その半片でも、人間が受けている、或は受けなければならない苦難を知ると、その・・・ 宮本百合子 「追慕」
・・・ ときいて、母に悔恨の涙をしぼらせた。姓がかわっていたばかりでなく、この下の弟は、全く母に似て、ぼーっと肥った大柄だった。わたしや上の弟が父ゆずりで小柄だったのにひきかえて――こういうことは、みんなずっとあとにおこったことがらだった。そのこ・・・ 宮本百合子 「道灌山」
・・・ 明治の初年、この村が始めて開墾されてから、変った生活を求めて諸国から集ったあまり富んでいない幾組かの家族は、あまり良いめぐり合わせにも会わないで、今に至って居るのである。 米沢人はその中での勢力のある部に属して居る。日常の事はさほ・・・ 宮本百合子 「農村」
旧佐倉街道を横に切れると習志野に連る一帯の大雑木林だ。赤土の開墾道を多勢の男連が出てシャベルやスコップで道路工事をやっている。×村から野菜を○○へ運び出すのに、道はここ一つだ。それを軍馬が壊すので、村民がしなければならない・・・ 宮本百合子 「飛行機の下の村」
出典:青空文庫