・・・彼は下級武士で、やがて武士をやめて俳諧の道に入った。芭蕉の風流というものの規準が極端に小さい経済的基礎の上に立っていることは、意味ふかいことである。芭蕉は、小舎の柱に一つの瓢箪をつるし、そのなかに入れた米とそのほかほんの僅かの現世的経済の基・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・殆ど時を同じくして、農林大臣は、米の専売案を語り、農林省の下級官吏たちは大会をもって、食糧の人民管理を主張した。この対照は、新聞をよんだすべての人々に、深い関心をよびさましたと思う。農林省につとめていれば、食糧関係のあらゆる行政の網が分って・・・ 宮本百合子 「人民戦線への一歩」
・・・明治維新に新しい権力者となった封建領主、下級武士たちが半封建的な本質をもっていたことは明瞭です。日本のブルジョアジーというものは、そういう半封建者たちの庇護のもとに、それとの妥協で、自分たちをのし上げたのであって、階級として擡頭したはじめか・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
細かい部分部分の記述については、もう一息と思われる所もないではないが、全体として見れば着実に、誠意をもって具体的に書かれ、心持よい印象を与えられた。 これまでの文学で、下級海員の生活を描いたものは、階級的な立場からあつ・・・ 宮本百合子 「「第三新生丸」後日譚について」
・・・ 貧農の息子、搾取と抑圧をうける若い下級銀行員として同志小林は、ごく初期の作品においてさえ、大衆の苦悩とその社会的根源をあばかんとする方向を示している。「一九二八年三月十五日」は三・一五当時における敵階級の野蛮な白テロを曝露するとと・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価に寄せて」
・・・よるべない下級武士の二六時にのしかかって来る生活のそういう矛盾が、宗房のような性格の人間に深い影響を与えなかったと考えることは寧ろ不可能である。宗房は敏感なばかりでなく、その時代の人として精神の土台は極めて現実的である。俳諧の道に於て、従来・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
・・・の作者の歩み出しはそのようなものとなったが、当時作者のおかれていた社会的現実は日給僅か一円なにがしの、小倉袴をはいた一下級雇員の日常であり、勤労階級の日常のうちに文学を愛好する青年たちの生活感情を、その頃のやりかたと内容とで作者は経験したの・・・ 宮本百合子 「文学における古いもの・新しいもの」
・・・ これらの波止場人足や浮浪人、泥棒、けいず買い等の仲間の生活は、これまで若いゴーリキイがこき使われて来た小商人、下級勤人などのこせついた町人根性の日暮しとまるでちがった刻み目の深さ、荒々しさの気分をもってゴーリキイを魅した。彼等が、極端・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・ さまざまの政治的変動の余波を蒙って、多くの波瀾を経ながら辛うじて疏水事業が進行しはじめたとき、米沢藩だの久留米藩だのから下級武士たちがそれぞれ一家をひきつれて開墾へ移住して来た。そしてそれぞれにもとの藩の名をつけて久留米開墾という風に・・・ 宮本百合子 「村の三代」
・・・山本有三氏は、この根幹をなす生涯のテーマから出立して、更にその人間としてなすべきことの内容と経過とその帰結とを小工場主、小学校、中学校、大学等の教師、下級中級サラリーマン、勤労婦人の日常葛藤の裡に究求し描き出そうとする。戯曲において、題材は・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
出典:青空文庫