・・・吾は個性としてかくかくの理想の下に包含せらるべきものを択むと云うならば、それで勘弁してもよい。好悪は理窟にはならんのだから、いやとか好きとか云うならそれまでであるが、根拠のない好悪を発表するのを恥じて、理窟もつかぬところに、いたずらな理窟を・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・まずここへでも一つあたってみようと云う気になったから直ぐ手紙を書いて、宿料その他委細の事を報知して貰いたい、小生の身分はかくかく職業はかくかく、なるべく低廉でなるべく愉快な処に住みたいと勝手な事をかいてやった。 その夜の十時頃自分の室で・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・まして、今日に生きる若い娘にとって、母の若かったとき、お祖母さんの若かったとき、それはかくかくであった、ということが、はたしてどれだけ今日を生き明日へ生きようとする生活の支えとなり得るだろう。 それらが支えとなるだけの力をもっていないと・・・ 宮本百合子 「ものわかりよさ」
・・・子供は実証主義者だから、母が主人という立場から、かくかくにするべきもの、という論点は分らず、女中がしたことがわるかったか、よかったかということを、めのこで主張し弁護するのであった。「お前はだまっているもんです、子供のくせに!」そう言われるよ・・・ 宮本百合子 「私の青春時代」
・・・「もしそうでなければ、かくかくであろう」というのが「なければ」の普通の用法である。それは、「もしそうであれば、かくかくでなかろう」という用法と対になる。もっとも後半の受ける方の文章はどう変わってもよいのであるが、とにかく「なければ」「あれば・・・ 和辻哲郎 「露伴先生の思い出」
出典:青空文庫