・・・大抵の子は大抵の親にちゃんとこの格言を実行している。 桃李「桃李言わざれども、下自ら蹊を成す」とは確かに知者の言である。尤も「桃李言わざれども」ではない。実は「桃李言わざれば」である。 偉大 民衆は人・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・と云う言葉を思い出し、××の将校や下士卒は勿論、××そのものこそ言葉通りにエジプト人の格言を鋼鉄に組み上げていると思ったりした。従って楽手の死骸の前には何かあらゆる戦いを終った静かさを感じずにはいられなかった。しかしあの水兵のようにどこまで・・・ 芥川竜之介 「三つの窓」
・・・あんまり緊張して、ついには机のまえに端座したまま、そのまま、沈黙は金、という格言を底知れず肯定している、そんなあわれな作家さえ出て来ぬともかぎらない。 謙譲を、作家にのみ要求し、作家は大いに恐縮し、卑屈なほどへりくだって、そうして読者は・・・ 太宰治 「一歩前進二歩退却」
・・・、白々しく興覚めするほどの、生真面目なお約束なのであるが、私が、いま、このような乱暴な告白を致したのは、私は、こんな借銭未済の罪こそ犯しているが、いまだかつて、どろぼうは、致したことが無いと言うことを確言したかったからに他ならない。どろぼう・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・一、医師は、決して退院の日を教えぬ。確言せぬのだ。底知れず、言を左右にする。一、新入院の者ある時には、必ず、二階の見はらしよき一室に寝かせ、電球もあかるきものとつけかえ、そうして、附き添って来た家族の者を、やや、安心させて、あくる日・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・字で片づけ、懐疑説の矛盾をわずか数語でもって指摘し去り、ジッドの小説は二流也と一刀のもとに屠り、日本浪曼派は苦労知らずと蹴って落ちつき、はなはだしきは読売新聞の壁評論氏の如く、一篇の物語を一行の諷刺、格言に圧縮せむと努めるなど、さまざまの殺・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・そうでなければ、半分以上残ってるなんて、確言できる筈はない。やった、やったんだ。よくあるやつさ。トイレットの中か、または横丁の電柱のかげで酔っていながら、残金を一枚二枚と数えて、溜息ついて、思い煩うな空飛ぶ鳥を見よ、なんて力無く呟いてさ、い・・・ 太宰治 「渡り鳥」
・・・そうでなければ、詩だか画題だか格言だかわからなくなる。のみならず、近来わが国諸学者の研究もあるように、七五の音数律はわが国語の性質と必然的に結びついたもので人為的な理屈の勝手にはならないものである。この基礎的な科学的事実を無視した奇形の俳句・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・命の欲しい者は用心じゃと云う文句が聖書にでもある格言のように胸に浮ぶ。坂道は暗い。滅多に下りると滑って尻餅を搗く。険呑だと八合目あたりから下を見て覘をつける。暗くて何もよく見えぬ。左の土手から古榎が無遠慮に枝を突き出して日の目の通わぬほどに・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・ 例えばその文の大意に嫉妬の心あるべからずというも、片落に婦人のみを責むればこそ不都合なれども、男女双方の心得としては争うべからざるの格言なるべし。また姦しく多言するなかれ、漫りに外出するなかれというも、男女共にその程度を過ぐるは誉むべ・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
出典:青空文庫