・・・この島の火山には鎮護のためか、岩殿と云う祠がある。その岩殿へ詣でるのじゃ。――火山と云えば思い出したが、お前はまだ火山を見た事はあるまい?」「はい、たださっき榕樹の梢に、薄赤い煙のたなびいた、禿げ山の姿を眺めただけです。」「では明日・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・いたと言えないこともないものを、臨機縦横の気働きのない学芸だから、中座の申訳に困り、熱燗に舌をやきつつ、飲む酒も、ぐッぐと咽喉へ支えさしていたのが、いちどきに、赫となって、その横路地から、七彩の電燈の火山のごとき銀座の木戸口へ飛出した。・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・噴火する火山にもあります。もしこれを利用するを得ますればこれらはみなことごとく富源であります。かならずしも英国のごとく世界の陸面六分の一の持ち主となるの必要はありません。デンマークで足ります。然り、それよりも小なる国で足ります。外に拡がらん・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・だからかわいたしみったれた考えを起こさずに、恋する以上は霞の靉靆としているような、梵鐘の鳴っているような、桜の爛漫としているような、丹椿の沈み匂うているような、もしくは火山や深淵の側に立っているような、――つねに死と永遠と美とからはなれない・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・激しく男女の労働する火山の裾の地方に、高瀬は自分と妻とを見出した。 塾では更に校舎の建増を始めた。教員の手が足りなくて、翌年の新学年前には広岡理学士が上田から家を挙げて引移って来た。 子安という新教員も、高瀬が東京へ行った序に頼・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・その下にどこかの天ぷら屋の宣伝札らしいものがある。火山に天ぷらは縁があると思えば可笑しい。 岩塊の頂で偶然友人N君の一行に逢った。その案内で程近い洞穴の底に雪のある冷泉を紹介された。小さな洞穴の口では真冬の空気と真夏の空気が戦って霧を醸・・・ 寺田寅彦 「浅間山麓より」
・・・ 彗星の表現はあまりにも真実性の乏しい子供だましのトリックのように思われたが、大吹雪や火山の噴煙やのいろいろな実写フィルムをさまざまに編集して、ともかくも世界滅亡のカタクリズムを表現しようと試みた努力の中にはさすがにこの作者の老巧さの片・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
日本から南洋へかけての火山の活動の時間分布を調べているうちに、火山の名前の中には互いによく似通ったのが広く分布されていることに気がついた。たとえば日本の「アソ」、「ウス」、「オソレ」、「エサン」、「ウンセン」等に対してカム・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・この事実は一方では地震や火山の多いこととも関係するが、一方ではまた日本の風景の多種多様なことや、ひいてはまた国々の郷土的色彩の変化の多いこととも連関していると思われる。われわれの祖先から住み古したこの国土の地質自身からがすでにあらゆる世界じ・・・ 寺田寅彦 「カメラをさげて」
・・・例えば火山の噴火を示すのでも本当に子供だましの模型や如何わしい地殻断面図の行列であって、一つも現象の科学的な要点に触れていなかった。また例えば子供の誤って呑込んだおはじきが消化器系を通過する径路を示すのを見たが、これなどでも消化器というもの・・・ 寺田寅彦 「教育映画について」
出典:青空文庫