こう云う船だった。 北海道から、横浜へ向って航行する時は、金華山の燈台は、どうしたって右舷に見なければならない。 第三金時丸――強そうな名前だ――は、三十分前に、金華山の燈台を右に見て通った。 海は中どころだっ・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・五月廿日 *いま窓の右手にえぞ富士が見える。火山だ。頭が平たい。焼いた枕木でこさえた小さな家がある。熊笹が茂っている。植民地だ。 *いま小樽の公園に居る。高等商業の標本・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
ある死火山のすそ野のかしわの木のかげに、「ベゴ」というあだ名の大きな黒い石が、永いことじぃっと座っていました。「ベゴ」と云う名は、その辺の草の中にあちこち散らばった、稜のあるあまり大きくない黒い石どもが、つけたのでした・・・ 宮沢賢治 「気のいい火山弾」
・・・早くイーハトーヴの市に着いて、あの親切な本を書いたクーボーという人に会い、できるなら、働きながら勉強して、みんながあんなにつらい思いをしないで沼ばたけを作れるよう、また火山の灰だのひでりだの寒さだのを除くくふうをしたいと思うと、汽車さえまど・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・ええ、ここに一つの火山がある。熔岩を流す。その熔岩は地殻の深いところから太い棒になってのぼって来る。火山がだんだん衰えて、その腹の中まで冷えてしまう。熔岩の棒もかたまってしまう。それから火山は永い間に空気や水のために、だんだん崩れる。とうと・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
私が茨海の野原に行ったのは、火山弾の手頃な標本を採るためと、それから、あそこに野生の浜茄が生えているという噂を、確めるためとでした。浜茄はご承知のとおり、海岸に生える植物です。それが、あんな、海から三十里もある山脈を隔てた・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・ それから風がどうっと吹いて行って、火山弾や熱い灰やすべてあぶないものがこの立派なネネムの方に落ちて来ないように山の向うの方へ追い払ったのでした。ネネムはこの時は正によろこびの絶頂でした。とうとう立ちあがって高く歌いました。「お・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・噴火係の職をはがれ、その火山灰の土壌を耕す。部下みな従う。七、ノルデは頭からすっかり灰をかぶってしまった。 サンムトリの噴火。ノルデ海岸でつかれてねむる。ナスタ現わる。夢のなかでうたう。八、ノルデは野原にいくつも茶いろなトランプ・・・ 宮沢賢治 「ペンネンノルデはいまはいないよ 太陽にできた黒い棘をとりに行ったよ」
・・・とにかくその七月いっぱいに私のした仕事は、一、北極熊剥製方をテラキ標本製作所に照会の件一、ヤークシャ山頂火山弾運搬費用見積の件一、植物標本褪色調査の件一、新番号札二千三百枚調製の件 などでした。 そして八月に・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・ 地殻の物語は、そこに在る火山、地震、地球の地殻に埋蔵されてある太古の動植物の遺物、その変質したものとしての石炭、石油その他が人間生活にもたらす深刻な影響とともに、近代社会にとって豊富なテーマを含蓄している。岩波書店から出ている「防災科・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
出典:青空文庫