・・・婦人は片時も斯る境遇に安んずるを得ず、死を決しても争わざるを得ず、否な日米、国を殊にするも、女性は則ち同胞姉妹なり、吾々は日本姉妹の為めに此怪事を打破して悪魔退治の法を謀る可しとて、切歯慷慨、涙を払て語りたることあり。我輩は右の話を聞て余処・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・さる無駄口に暇潰さんより手取疾く清元と常磐津とを語り較べて聞かすが可し。其人聾にあらざるよりは、手を拍ってナルといわんは必定。是れ必竟するに清元常磐津直接に聞手の感情の下に働き、其人の感動を喚起し、斯くて人の扶助を待たずして自ら能く説明すれ・・・ 二葉亭四迷 「小説総論」
・・・老人はしばらく私を見ていましたが、また語りつづけました。「沙車の春の終りには、野原いちめん楊の花が光って飛びます。遠くの氷の山からは、白い何とも云えず瞳を痛くするような光が、日光の中を這ってまいります。それから果樹がちらちらゆすれ、ひば・・・ 宮沢賢治 「雁の童子」
・・・ また、或る婦人雑誌はその背後にある団体独特の合理主義に立ち、そして『婦人画報』は、或る趣味と近代機智の閃きを添えて、いずれも、これらのトピックを語りふるして来たものである。 ところが、今日、これらの題目は、この雑誌の上で、全く堂々・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・其点がはっきりしてこそ、早苗が、只、敵方に騙り寄せられた城将の妻が古来幾度か繰返したような自裁を決行したのか、又は彼女が云うように、国や命を賭けた戦を、彼女の命で裁かれたのか、歴然と一方に事実として照し出されたのではあるまいかと思うのである・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・中国は中国の人々自身の物語をかたりはじめた。インドも、朝鮮も、インド・シナも。アジアは、現代史のなかで、はっきり一つ地球の東側に生存している人類の文学として自身をなりたたせる可能を示しはじめた。 日本は、アジアの憲兵であると云われて来た・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・ もう一遍、さも育ちきった若者らしく、じろりと私に流眄をくれ、かたりと岡持をゆすりあげ、頓着かまいのない様子で又歩き出す。三尺をとっぽさきに結んだ小さい腰がだぶだぶの靴を引ずる努力で動く拍子に、歌い出した鼻唄が、私の耳に入って来る。・・・ 宮本百合子 「小景」
・・・口の中で、トウレの君のかたり草誠かはらで身を終へし愛人がいまはにのこしたる黄金のさかづきまもりつゝ こんな事をうたって居た。おだやかな気持にかえってあの帝劇で見た時のグレートヘンの着物、声、口元そんな事を思い出し・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・――だからね、ダーシェンカ、三百円は、私にとってただの金ではないんですよ、命の一部分なの、それを、ね、ダーシェンカ、そんな思いでためている金を、私より技量のある、丈夫なエーゴルに騙りとられて黙っていられるでしょうか、ね、ダーシェンカ」 ・・・ 宮本百合子 「街」
・・・泥棒だの、かたりだのだ。いつだって行列が無事にすんだことはないんです。怪我人があったり、人殺しがあったりします」 まあそういうこともあるだろう、けれども、それは行列に立った労働者たちが自発的にやるメーデーの余興ではないのだ。反動団が暴れ・・・ 宮本百合子 「ワルシャワのメーデー」
出典:青空文庫